頭を駆け巡っていたはずの「引退」
一夜明けると、白鵬は冷静に場所と優勝を振り返った。
「優勝するというのは、大変なんだな、と改めて思った」
「(最後の一番は)勝負だからね。賜杯を抱きたい気持ちが強かった」
今回は4場所ぶりの優勝で、賜杯から遠ざかっていたとき、おそらく「引退」が頭の中を駆け巡っていたに違いない。実績からして3場所も優勝していないというのは、自分で許せなかったはずだ。だから何がなんでも優勝しなければならないと意を決し、その結果が変化による勝ち星だったともいえる。そう言う意味では自分との闘いだったのではないか。
変化の手段を持って勝つ。もし、その変化に失敗して敗れたら、それこそみじめである。そのリスクを背負うのが変化である。野球でいえば、スクイズでサヨナラ勝ちというところだろう。
勝つための変化、スクイズも日頃の稽古、練習の成果、という考え方もあるのではないか。
ただ、大横綱の優勝を決めた勝利が変化ということで、今後、そういった相撲が日常化しないか、という懸念はある。白鵬だってやったじゃないか、といった風潮を恐れるばかりである。
15日間「満員御礼」となり、懸賞本数1672本は地方場所の最多記録。そんな中の白鵬の優勝で間違いなくいえるのは「必死の優勝」だったことだ。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)