長年に渡り、ひきこもっている人の「更生術」を紹介した番組「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日系)に、賛否の声が寄せられている。その内容の激しさから、非難のトーンが強い声も多い。
ひきこもりの更生と言えば、支援者と当事者が腰を据えて対話する姿を思い浮かべる人も多いだろう。ところが今回、番組で放送されたのは、支援者が部屋のドアを蹴破って怒声を浴びせかける「荒療治」だった。
まるで立てこもり事件の警官突入シーン
同番組の2016年3月21日放送回は「大人のひきこもり」特集だ。主に取り上げたのは、ひきこもりを家から出す方法。非行や不登校、引きこもりを預かる学校「ワンステップスクール伊藤学校」(東京都渋谷区)の廣岡政幸校長が、相談を受けた家庭に赴いて引きこもりと対峙する様子を紹介した。
千葉県に住む70代の夫婦宅に踏み込んだ時のことだ。転職や株に失敗し、800万円もの借金を抱えて戻った47歳息子が13年間引きこもり続けている。突き飛ばされて足で踏みつけられた、と夫婦が証言するなど、事態はかなり深刻化していたようだ。
廣岡校長は、部屋の前で当初穏やかに話しかけていたが、良い反応を得られなかったのか、徐々に言葉遣いが荒くなってくる。
そして、ついにはドアを強く押して「バリバリバリ」と破壊し、無理やり部屋に突入。「降りてこい!」と叫んだ。立てこもり事件の警官突入シーンを彷彿とさせる迫力だ。
また、詳しい場所は明かされなかった、ある「ゴミ屋敷」にも訪れる。そこには、11年間引きこもり、腐敗した食品で家中を埋め尽くした41歳の男性が暮らしていた。「ゴミ屋敷」は、今は高齢者施設に身を寄せる親の家だった。
この男性にも「やーだの、あーだの、うーだの言ってるヒマがあったらよぉ、自分の自立一歩でもどうやって進むか考えろ、今!」と強い口調で叱り飛ばした。
その後のインタビューシーンで廣岡校長は
「何かあってからじゃ遅いから、僕らは対応しているんです。警察は『何かあってから』じゃないと対応できない。僕らは『何かないようにするため』やるしかないんです」
と話していた。
「中高年ひきこもりへの暴力」
あまりにもインパクトの強い映像だったためか、放送中からツイッターで
「本当に無神経で酷い」
「やばいなぁ。引きこもり、こんな風に引きずり出しちゃ」
と批判の声が巻き起こった。とりわけ強い抗議の声を上げたのが、精神科医の斎藤環さんだ。引きこもりに関する著書も多く、02年に出版した『「引きこもり」救出マニュアル』(PHP研究所)はベストセラーとなった。
斎藤さんは16年3月21日のツイッターで、
「興味本位で中高年ひきこもりへの暴力を放映している」
と同番組の問題点を指摘。引きこもり自立支援施設「アイ・メンタルスクール」(名古屋市、すでに閉鎖)に入寮した男性らを暴行、監禁、死亡させたとして、運営元のNPO法人代表理事だった女性が逮捕、起訴された06年の事件にも触れ、注意を促した。16年3月22日には、BPO(放送倫理・番組向上委員会)に審査要請を出したとツイッターで報告している。
さらに、23日にはフェイスブック上で
「あのような暴力を『親を苦しめているんだから当然』とか『生徒が社会復帰したんだからOK』と言うのなら、体罰もしごきもDVも虐待も『結果オーライ』 になってしまいます。ひきこもり当事者にも人権があることをお忘れですか? 伊藤学校があの手法をとることをやめない限り、私は批判をやめるつもりはありません」
とするメッセージを公開した。