「やりがい搾取」と勘違い?
インドネシアでカカオ農家の生活向上に取り組む京都の有名チョコレート専門店、バングラデシュの貧困層の雇用を生み出すアパレルブランド、少しでも現地人の役に立ちたいと奮闘する経営者の姿が印象的だった。
30代のチョコレート専門店店主は番組のインタビューで「給料は後からついてくるもの。農家自身がうれしい、誇りを持って働いている、そういうのを見るのがやりがい」と話した。
いずれの事例もビジネスの興味深い新潮流に見えるが、なぜ批判が集中したのか。
それはツイートを見て「やりがい搾取」を思い出す人が多かったからかも知れない。企業が「自己実現」や「やりがい」という言葉だけをぶら下げ、労働者に長時間労働させる仕組みを作り、労働内容に見合った正当な代価を支払わない状況、それが「やりがい搾取」だ。労働社会学ではすでに重要な議論のテーマで、ブラック企業や賃金適正化の文脈から批判されることが多い。
今回番組が特集したのは「高収入の安定した職を捨てて社会のために起業した若者」であり、「やりがい搾取」の事例に当てはまらない。だが、いつもは新興企業も含めた成功した経営者の出演が多いためか、最初のツイートを含め、多くのネットユーザーには、「やりがい搾取」の推奨と誤解されてしまったようなのだ。
実際、
「そうやって『やりがい搾取』するのが貧困の一因になってんじゃないの」
「この後に及んでまだやり甲斐搾取かよ」
といった指摘もツイッターで散見された。
23日17時現在、公式アカウントはこれらの声に反応していない。
所得格差やブラック企業的な雇用への疲弊感から、「やりがい」という言葉は、もはやサラリーマンの働くモチベーションにつながらない――。そんな時代を象徴する一断面だった。