スペインの世界的サッカークラブ、FCバルセロナの本拠地「カンプノウ」の改修を、日建設計のチームが手掛けることが2016年3月8日、同クラブから発表された。全世界に1億人のファンがいるとも言われる巨大クラブが総額6億ユーロ(約750億円)を投じる大プロジェクトだ。
日建設計は、日本の「新国立競技場」旧整備計画で設計チームの中核だったが、15年7月に白紙に戻された。その約半年後に決まった新カンプノウ改修とあって、内外からは「新国立のリベンジ」とする声が相次いでいる。
10万人収容の欧州最大規模のスタジアム
現在のカンプノウは欧州最大規模のスタジアムで、サッカーファンのみならず、バルセロナを含むカタルーニャ地方の人々にとって象徴的な存在とされている。完成したのは1957年。間もなく築60年となり、老朽化に対応する必要が出た。新設も検討されたが、改修の2倍の費用がかかるとして財政上の理由から却下。改修が決まり、屋根の新設、収容人数の拡張(9万9354人から10万5000人へ)などの条件をもとに、国際設計コンペティション(コンペ)を開催した。
工費は周辺施設を含めると6億ユーロ(約750億円)、新カンプノウには3億6000万ユーロ(約450億円)を投じる。工期は17~21年で、期間中も閉鎖せずに試合に使えるよう工事を進める。15年6月にコンペの募集要項が発表され、26案の応募があった。最終8案に絞り、クラブ幹部など9人の審査員が満場一致で、日建設計と地元事務所共同のチームの案を選出した。
新カンプノウ改修担当の決定に、ネット上では、
「これってスゲー事なんじゃない?」
「バルセロナファンとしては嬉しいなあ」
「日本の技術が世界一のクラブの本拠地を作れるなんて素晴らしい!」
一方、国を代表する巨大スタジアムという共通点から
「なぜ新国立がここじゃないのか・・・」
といった声も出ている。
日建設計は、新国立の設計でザハ氏監修の設計チームに参加したが、巨額の費用などが問題となり、15年7月に計画は白紙撤回された。その後の15年9月、新計画の公募に向けて再度ザハ氏とタッグを組んだが、施工会社との折り合いがつかずに、結局は断念せざるを得なかった。
手が届きそうで届かなかった新国立。それから約半年後に決定した新カンプノウ改修を手掛けることで、「新国立のリベンジ」と位置付ける声も出ている。実際、新国立の計画に携わったメンバーが、新カンプノウにも複数参加している。
設計担当・勝矢氏「人生最大の勝負に勝ちました」
コンペ中の15年12月15日、日刊スポーツは「新国立白紙の日建設計 バルセロナ本拠地でリベンジ」と題して報道した。設計担当・勝矢武之氏は「江戸の敵はスペインで討つ」「これぐらい大きな仕事じゃないと新国立の気持ちは切り替えられなかっただろう」と述べ、設計部長・小松康之氏も「新国立で出そうとしていた知識や技術をフル活用できている」と、ノウハウを生かせたことを認めている。
企業サイトで公開した新カンプノウのイメージ図は、外側を壁で覆わず、3層のフロアごとにコンコースでぐるりと囲むデザイン。新国立の「SANAA+日建設計」案では「これまでにない開かれた競技場のイメージ」という審査講評が出たが、それに通じるものを思わせる。
同社は新カンプノウのテーマの一つに「豊かなパブリック・スペースの創出」を掲げており、クラブ側は「開放的でエレガント」「あらゆる局面で自由なスペースになることを想定している」とコメント。町や市民に溶け込むような空間が評価されたのかもしれない。
コンペを勝ち取った16年3月8日、勝矢氏はツイッターで「人生最大の勝負に勝ちました」と喜びを表した。3月14日付の日経アーキテクチュアの記事は「海外の著名な競技場で東京五輪の『雪辱』を果たすことになりそうだ」と期待を示した。
ただ、日建設計広報室は3月16日、J-CASTニュースの取材に対して「新国立と新カンプノウとの関係性については、弊社としては現段階ではコメントを差し控えさせていただきます」とし、勝矢氏の発言などは「個人的な感想」と捉えている。
FCバルセロナは建設計画を発表する「お披露目イベント」を現地で開催する予定(時期未定)だが、日建設計は「それまで計画の詳細は明かせない」とコメントした。