「かかりつけ医」の薬局版とも言える「かかりつけ薬剤師」の仕組みが2016年度から動き出す。診療報酬改定で「かかりつけ薬剤師」の評価が新設されるためだ。
国はこの新たな仕組みをうまく機能させ、医療費抑制につなげようと狙うが、浸透するには課題もある。
高齢者の薬の飲み残しは年500億円
かかりつけ薬剤師は、患者が複数の病院で処方された薬を一元的に管理し、適切に服薬指導する存在だ。医師が処方箋を出し、薬剤師が調剤する「医薬分業」が進む中、大規模病院のそばに店を構えて営業する「門前薬局」が近年、栄えてきた。
しかし、門前薬局は「処方箋が入場券」などと言われるように、医師の処方箋に従って調剤するだけで、患者と密接にかかわり、健康を守る役割を果たしていないとの批判が浮上。厚生労働省も「薬局は患者のためになる本来の機能を果たすべきだ」とし、今回の診療報酬改定では、かかりつけ薬剤師を評価する一方、特定の医療機関から集中的に処方箋を受け付ける大型門前薬局は報酬を引き下げることにした。
日本人の寿命が伸びる中、糖尿病や高血圧、認知症など多くの病気を抱える高齢者は増えている。毎日、数種類の薬を大量に飲まなければならない人の場合、飲み忘れや飲み過ぎだけでなく、飲み合わせの悪さから副作用を起こすケースも少なくない。厚労省は、こうしたリスクから患者を守るため、薬剤師が薬をまとめて管理し、医師とも連携を深めるよう期待している。
同時に厚労省が狙うのが、膨大な医療費の抑制だ。2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり、現在でも約40兆円に上る医療費は、60兆円を超えると予想される。薬剤師が患者の服薬に責任を持ち、薬の重複や飲み残しを減らせば、医療費の削減につながる可能性が高い。実際、在宅の75歳以上の高齢者の分だけでも現在、飲み残しは年間約500億円に上るとの試算もある。 また、薬局は全国に約5万7000カ所あるとされ、地域で暮らす患者ときめ細かくつきあうことも可能だ。薬局が地域の健康ステーションのような形になれば、病院に足を運ぶ患者が減ることも期待できるというわけだ。
24時間対応とプライバシー保護も課題
とはいえ、「かかりつけ薬剤師」が期待通り広がっていくかは未知数だ。かかりつけ薬剤師になるには、高い知識やコミュニケーション能力が必要なうえ、24時間の対応も求められる。患者の病歴や生活環境などプライバシーにかかわる情報も把握しなければならない。患者から「かかりつけ薬剤師」として信頼を得られるかが大きなカギになる。これまで処方箋を通じた機械的な対応しかしてこなかった薬剤師は少なくなく、いかに意識を変え、意欲を持てるかがポイントになる。
東京都内で薬局を営む70代の薬剤師は「薬剤師にとっては今が正念場。国からこれだけ期待される中、何の役割も果たせなければ、薬剤師の存在価値もなくなってしまう」と話す。