日が暮れ始めると、JRいわき駅近くの細い路地にある10軒ほどの飲食店の明かりがチラホラと灯り出した。駅前ではよく見かける光景だが、福島県いわき市の「夜明け市場」はちょっと特別だ。
東日本大震災で被災して店を失った人たちに新たな店舗スペースを提供する飲食店街として、2011年11月にオープンした。今では被災者支援の枠を超えて、地域活性化の核となる飲食店街を目指している。
東京から戻り、「食を通して地域を盛り上げる」仕掛け人に
「夜明け市場」の仕掛け人のひとり、事務局長の松本丈さん(33)はいわき市四倉町出身だ。震災が起きるまでは同郷の旧友、鈴木賢治さんが代表を務める会社で、東京都内で「福島の食材」をコンセプトにした飲食店の開店準備に奔走していた。地震発生間もない2011年4月初旬、津波の被害を受けた故郷の四倉町に東京から出向いて炊き出しをした。地元の商工会や婦人会の協力を得て、多くの人に喜んでもらえた。半面、経費の負担が大きく、同じ支援を続行するのは難しいと考えた。
炊き出しの帰り道、松本さんは鈴木さんと地元への貢献の仕方を話し合った。出した答えは、「飲食街という企画で、地元にビジネスとしてかかわろう」。震災で店を失った飲食店オーナーの再起を後押しする目的を掲げた。
立案の際にこだわったのは、JRいわき駅前という立地だ。
「郊外だと、最初は大勢来てもらえても継続しての集客が難しいと考えたのです」。
苦心の末、築45年だが駅から徒歩3分と絶好の建物を見つけた。「食を通して地域を盛り上げる」がコンセプトの核だ。当初は被災者向けに説明会を開催したり、紹介を受けたりして出店希望者を募った。松本さんら運営側は、「店を出しやすいように」と賃料を低く設定し、仲介手数料は無料、開店日までは家賃を徴収しないと細かく配慮した。
2011年11月のオープン当初は、被災者がオーナーの店だけだった。その後、UターンやIターンで「店を出したい」と望む人が増えていった。福島県外からボランティアで来ているうちにいわきを気に入り、「夜明け市場」で店を持った人もいる。
「飲食店経営の実績がないと、新規創業のための不動産を借りるのが難しい。でも、被災者応援からスタートした「夜明け市場」は、飲食で新たにチャレンジする人、一緒に街を活性化してくれる人を応援する場所に成長していきました」