「験担ぎの意味合いが強く、賭博行為とは全く異質だ」――。野球賭博問題に揺れるプロ野球・巨人の選手が、公式戦の勝敗に応じて現金をやり取りしていた問題について、球団は2016年3月14日の会見で「賭博行為ではない」と強く訴えたと伝えられている。
だが、甲南大学法科大学院教授で刑法学者の園田寿弁護士は、J-CASTニュースの取材に対し、「法的に見れば、賭博行為そのものです」と巨人の主張を真っ向から否定した。
法律的に選手を処分することは「可能」
2012年5月頃から、3年以上にわたって巨人の選手間で行われていたという、「声出し」と呼ばれる現金のやり取り。試合前に組まれる円陣で声出しを担当する選手に対し、その試合が勝利の場合は1人5000円を声出し担当者に渡すもの。また、試合に負けた場合は、声出しを行った選手が他の参加選手に現金を支払う。1軍選手の大半が参加していたといい、1回当たり10万円以上の現金が動いていた。
16年3月14日にサンケイスポーツと産経新聞が「スクープ」した今回の問題について、巨人とNPBは同日昼に公式戦の勝敗に応じた金銭授受の事実を認めた。翌15日の朝刊では、朝日・産経・毎日の3紙がこの話題を一面で取り上げ、日経新聞も社会面で大きく報じた。一方、同日付読売新聞朝刊(東京14版)は、第2社会面とスポーツ面で短く報じただけだった。
読売の報道によると、巨人側は「験担ぎの意味合いが強く、賭け事とは全く異質だ」などと説明し、あくまで「ご祝儀」だと強調したという。NPB側も、野球賭博問題を受けて15年11月までに行った調査で事態を把握していたが、「野球協約違反に当たらない」と判断し、具体的に公表しなかったという。
だが、園田寿弁護士はJ-CASTニュースの取材に対し、「法的に見れば、賭博行為そのものです」と答えて、巨人とNPBの見解に異を唱えた。
「賭博とは、結果が事前に予測できない『偶然の事象』を対象に財産上の利益を争う行為を指すため、今回の『声出し』も形式上は賭博罪に当てはまります。また、刑法ではコーヒー代や軽食代など『一時の娯楽に供する物』を賭けた場合は対象外とされていますが、現金を授受した場合は賭博行為と見なされます」
そのうえで、
「現代では『賭博行為』による摘発例はほとんどないことも事実ですが、今回は社会的影響力も大きく、法律に即して『声出し』を行っていた選手が摘発される可能性は十分あります」
と話した。
阪神も「声出し」、巨人は新たな「賭博関与者」報道も
一方で、NPB側が事態を公表しなかった理由の1つとして挙げた「プロ野球選手としては金額が少額であるため」という説明も波紋を広げている。ツイッターやネット掲示板では、「額の問題じゃない」「感覚がおかしい」などとNPBに対する批判が殺到していた。
こうしたNPBの説明を受け、2016年3月15日付サンケイスポーツ朝刊には、元検事でテレビ番組などに出演している住田裕子弁護士のコメントが掲載された。その記事によると、住田弁護士は「億を稼ぐプロ野球選手にとって、1回数千円の出費は缶ジュースを買うようなものだった」として、巨人やNPBの説明に「一定の理解を示した」と伝えられている。
だが、先述の園田弁護士は「それでは、大金持ちならば何億円かけても賭博に当たらないことになってしまう」として、金額の多寡は関係ないと指摘している。
15日には新たに、阪神タイガースでも「声出し」による金銭のやり取りや「賭けノック」が行われていたことが報じられた。
さらに、週刊文春のWEB版は15日16時、NPBから「野球賭博常習者」と認定された「B氏」へのインタビュー記事を掲載。B氏のコメントとして、巨人の1軍選手10数名が「高校野球賭博をしていた」と伝えた。
球界全体に波紋を広げる今回の賭博騒動、収束する気配は見えない。
園田弁護士は、今回の騒動がプロ野球の興行自体にも影響を与える可能性を指摘。2010年に発覚した大相撲の賭博問題の調査過程で明らかになった八百長問題で、翌11年の春場所が中止となった例を引き合いに、「シーズンが中止される可能性も十分ある」と話している。