ファッション感覚で体に刻んだ「タトゥー(入れ墨)」でも、後々日常生活の様々な場面で障害になってくる。特に日本では、入れ墨に対する世間の目は厳しい。
入れ墨を彫る際は、皮膚に針で傷つけて色を注入する。万一、使用される針が使い捨てでなかったら、そして消毒が不完全だったら、怖い感染症にかかる恐れがある。
「針は使い捨て」を強調する彫り師もいるが...
入れ墨で感染する恐れがあるのはB型肝炎、C型肝炎、そしてエイズウイルス(HIV)――。新潟市のやまもと形成外科クリニックは、ウェブサイトでこう指摘している。針などの器具は、使い捨てにすれば感染症を防げるが、器具が高価だと「彫り師」によっては消毒して繰り返し使うことになる。すべて完璧に消毒されているかどうかは、彫り師次第になる。
「日経ヘルス」2015年10月号では、国立国際医療研究センター国府台病院の肝炎・免疫研究センター長、溝上雅史氏が、今日C型肝炎が若い世代で散見される点について「その多くが、ピアス、入れ墨などによる感染だと考えられる」と述べている。また埼玉県をはじめ、青少年の入れ墨を条例で禁じている自治体が複数ある。そのひとつの茨城県は、ウェブサイト上で「施術の状況によっては、器具から感染症にかかり、健康を害するおそれもあります」と注意喚起をしている。
国民生活センターは2011年10月27日付で、眉やアイライン、唇に針などで色を入れる「アートメーク」に関する被害状況をウェブサイトで公表した。事例その1は、眉のアートメークで2回目の施術後に化膿し、皮膚科からは施術時の針や色素に問題がある可能性があると診断された。その2は、エステサロンにおけるアイラインのアートメークの事例だ。施術中に痛みを感じたが続行され、帰宅後も痛みと涙がとまらず、眼科の診察の結果角膜が傷ついていた。
同センターはアートメークを、「皮膚の浅い深いに関係なく皮膚に針で色素を入れるという意味では入れ墨である」と定義。また日本では、医師免許のない者が「業」として施術すれば医師法違反に当たると説明する。
彫り師の中にはウェブサイト上で、「針は使い捨て」「使用器具は専用の消毒器ですべて殺菌」と衛生面を詳しく説明しているケースもある。半面、医師免許の有無については不明な点も多い。
入れ墨除去「違法店」で皮膚のただれ
一方、彫った入れ墨を取り除く場合はどうか。高須クリニックのウェブサイトに、除去に関するQ&Aがある。色が付いた入れ墨の場合は「切除縫縮手術」や、「面積の広い場合は剥削手術や植皮等の手術」を行うという。入れ墨の状態によっては、とても難しい治療だそうだ。入れ墨が広範囲だったり、色が深く入り過ぎたりという場合は皮膚移植をする場合もある。
皮膚移植をした個所は、周りと比べて若干やけど跡のようになるのがほとんどで、その皮膚を採取した部分も同様の跡が残るそうだ。もちろん医師は、施術で極力目立たせなくなる努力をするはずだが、入れ墨を入れる前の状態に100パーセント戻すのは至難の業だろう。
医療機関でもこれほど難しいという入れ墨の除去、まして「違法店」で施術を受けたとしたら、その結果がどうなるかは想像に難くない。2015年5月27日付の毎日新聞朝刊は、入れ墨除去の需要が増している半面、費用が決して安くないところから格安で施術する違法店が出てきていると報じた。記事では捜査関係者の話として、違法店はレーザー照射で除去することが多く、太い輪ゴムで強くはじかれるような激痛が走る場合があるという。「皮膚がただれた」「やけどのような水ぶくれができた」との訴えがあると、紹介されている。