「円安」の収束と「愛知製鋼」の爆発事故が響く
鋼材価格のトレンドの転換点となったのは2015年度上半期の交渉だった。鋼板価格は原材料価格の下落を反映し、2014年度下半期から1トン当たり6000円(約6%)引き下げることで合意した。円安などのコスト上昇を織り込むことで「横ばい」だった2014年度下半期から一転した。新日鉄住金など鉄鋼大手が2015年7-9月に資源大手から調達した鉄鉱石価格は1トン当たり52ドルと4-6月に比べ16%も下落した。原料炭も7-9月は93ドルで15%の下落だった。トヨタ側としては、円安の恩恵を受けて最高益を更新するなかで、新日鉄住金側に調達価格面で譲歩してきたが、その姿勢を変えたと言える。
安値で買いたたかれていることもあり、鉄鋼会社の経営は悪化している。例えば、神戸製鋼所は2016年3月期に3年ぶりの最終赤字に転落する見込みで、赤字額は200億円(前期は865億円の黒字)と予想する。15年10月時点では200億円の黒字を見込んでいたが、中国経済の減速も響いている。鋼材価格下落は鉄鋼業界再編も引き起こし、首位の新日鉄住金が4位の日新製鋼を買収し、鉄鋼大手は3社に集約されることになった。
トヨタが鉄鋼会社に譲歩できなくなったのは、自社の業績が成長の踊り場を迎えたからでもある。トヨタの2016年3月期は営業利益が2兆8000億円と過去最高を見込む。ただ、直近の2015年10-12月期を見ると、円安効果の急減などにより2014年1-3月期以来、7四半期ぶりに前年同期比で営業減益となった。2016年に入ってからは為替相場が円高に傾斜するだけでなく、グループの愛知製鋼の爆発事故で部品調達が滞って2月に国内の完成車工場を6日間操業停止するなど、業績への下方圧力がかかっている。今後も自動車メーカーの業績が上向く要素は多くないだけに、鉄鋼メーカーには厳しい状況が続きそうだ。