東日本大震災から5年、被災地では当時、ライフラインがストップして日常生活に甚大な影響が出た。大災害に備えて、非常用袋に水や食料、常備薬を準備している人は少なくないだろう。
では、トイレはどうか。飲食すれば当然、排せつしなければならない。自宅のトイレが断水で使えなかったら、避難所のトイレの数が足りなかったら、あなたはどうする?
会社で「防災トイレ計画」を立て、スピーディーな初動を
東日本大震災の発生時、避難所生活を強いられた被災者からは、「トイレが流れない」「あふれてきている」といった声が出た。一方、仮設トイレはすぐには準備されなかった。日本トイレ研究所のウェブサイトによると、震災時に岩手、宮城、福島の被災地で仮設トイレが設置されるのに要した日数は、3日以内が34%、8~14日との回答も28%に上った。
実は「トイレで困った」という話題は、1995年の阪神・淡路大震災を経験した人たちからも挙がっていた。東日本大震災では広域にわたって未曾有のダメージとなった影響もあるが、やはり避難所でトイレに悩まされた人が続出した。
日本トイレ研究所代表の加藤篤さんは、全国各地で災害時のトイレの重要性に関する勉強会を開いている。震災以降、人々はトイレの大切さを意識し始めたとの印象だが、まだまだ「道半ば」のようだ。J-CASTヘルスケアの取材に、「医療・治療や食事は衛生なくして成り立ちません」と指摘する。トイレが機能しなければ、非衛生的な環境から病気がまん延する恐れが出てくる。排せつを極度に我慢することで、健康被害も懸念される。
まずは、災害時にはトイレが必須だとの意識を持ち続けることが基本だ。そのうえで、個人でできる備えをしておく。加藤さんが「マストアイテム」と位置づけるのが「携帯トイレ」だ。断水した場合、便座を覆う袋式のもので、中に吸水シートや薬剤が入っており、排せつ物を吸収したり固めたりする。防臭や除菌機能もあり、使用後は袋を縛って捨てる。できれば1週間分程度は備蓄しておきたい。
例えば会社で、災害時に「誰が携帯トイレを設置するか」「誰が排せつ後の処理をするか」といった「防災トイレ計画」を立てておくのが望ましいと、加藤さんは話す。水や食料は互いに分け合えても、排せつはそうはいかない。日ごろから訓練を積んでおき、「いざ」というときのスピーディーな初動が、被災後の生活に大きく影響するのだ。
両手を開けるための照明、ウエットティッシュも
自宅でも携帯トイレは常備しておきたい。例えば幼い子どもを抱えた母親が、マンション高層階で「孤立」してしまったらどうするか。加藤さんが注意点として挙げたのが、照明だ。実は排せつ時は、両手を開けておかないとスムーズにできない。「片手に懐中電灯を持ちながら用を足すのは難しい」というわけだ。非常用照明器具のタイプに配慮するとよいだろう。
もうひとつ、手の衛生も重要だ。あらかじめウエットティッシュやアルコールを備えておく。水不足の不便な暮らしが数日間続いても、子どもの手を拭いてあげたりできる。
国土交通省は2016年3月4日、「マンホールトイレ」の整備・運用のためのガイドラインを策定した。マンホールトイレとは災害時に、マンホールの上に簡易な便座やパネルを設置してトイレ機能を確保するもので、日常的に使っているトイレと近い環境を迅速に得られるという特徴がある。内閣府も3月7日、災害発生時には避難者50人に1つの割合で避難所にトイレを設置することを目安にするといった、自治体向けのガイドライン案をまとめた。国レベルで、こうした動きが出てきた。個人でも、水や食料と同じレベルでトイレをどう確保するかを事前に考えておきたい。
(追記)日本トイレ協会ではウェブサイト上に、「災害用トイレガイド」のページを開設している。災害時のトイレ事情や、災害用トイレの選び方などを詳しく解説している。