東芝のヘルスケア事業を手がける「東芝メディカルシステムズ」(栃木県大田原市)が、光学・精密機器メーカーのキヤノンに売却される見通しとなった。
東芝は、白物家電やパソコン事業、汎用性の高い半導体事業からほぼ撤退するなど、赤字事業の構造改革を実施。今後は原子力発電などの「エネルギー事業」と、フラッシュメモリーの「ストレージ事業」に注力とするというが、本当に「復活」できるのだろうか。
過去最大の赤字、自己資本比率は債務超過寸前
不適切会計をきっかけに業績悪化に苦しむ東芝は、医療機器子会社の「東芝メディカルシステムズ」(TMSC)売却の独占交渉権をキヤノンに付与すると、2016年3月9日に発表した。売却額は7000億円程度とされ、3月18日までに最終合意を目指す。
当初、売却先にはキヤノンのほか、富士フイルムホールディングス(HD)やコニカミノルタなどが名乗りをあげ、富士フイルムHDも有力視されていた。
東芝にとって、売却するTMSCは2016年3月期の業績見通しで、主要な事業で唯一、黒字が見込めるヘルスケア事業を担う。成長性も高く、いわば「虎の子」の子会社で、それこそ1円でも高く、1日でも早く売りたかったに違いない。
東芝は、それほど追い込まれているようなのだ。
2016年3月期の連結業績見通しによると、売上高は前期から4559億円減の6兆2000億円、営業損益は3400億円の赤字、最終損益は5500億円の赤字を見込んでいる。過去最大の赤字に転落することで、16年3月期の株主資本は4300億円と、前期から6540億円も減少する。
自己資本比率は、一般的に10%以上が安定的な事業活動を営むのに必要な水準とされるが、東芝はこれを大幅に割り込む2.6%と債務超過寸前にまで悪化することが見込まれる。
その一方で、東芝は人員削減などに伴う巨額のリストラ費用を計上する。売却の方針が決まっている半導体事業の一部や、白物家電やパソコン事業では他社との事業再編も視野に入れるなど、人員の配置転換や早期退職制度などを活用して1万人超を削減する計画だ。
投資をアドバイスする、つばめ投資顧問の栫井(かこい)駿介代表は、「自己資本がなければ、リストラすらできなくなります」と話す。
さらに、買収金額の7000億円について、「ふつうに考えたらこれは明らかに割高」と指摘。「メディカル社の売上高(4000億円)からみても、売却益は4000億~5000億円程度が妥当なところといえますから、2倍近くにものぼります」と説明する。
キヤノンにしても、是が非でも買いたい事情がある。主力のデジタルカメラがスマートフォンなどの普及で先行きが懸念されるなか、財務状況に余裕があるうちに、医療事業を育てておきたい。
財務体質の改善を急ぎ、少しでも高く買ってもらいたい東芝と、医療事業を強化したいキヤノンの思いが一致したのかもしれない。
生き残りは「エネルギー事業」と「ストレージ事業」が柱
前出の栫井駿介氏は、「東芝はとにかく目先の危機を回避するのが先ですから、メディカル事業の売却で一連の不祥事から財務的にはひと息つけるでしょう。成長事業を手放すのは痛いですが、高値で売れたからよしとするしかないでしょう」と話す。
東芝のTMSC売却に、インターネットには、
「なんでカメラメーカーばっかなんだ。まあ、キヤノンなら大丈夫だろうが」
「中国でなくてよかったwww」
「東芝としては7000億円で売れれば御の字じゃないの...」
「まさかのメディカル社員勝ち組www 家電やPC社員はかわいそうに」
「富士フイルムのほうがよかったんじゃない?」
「もともと東芝の『本流』ではなかったからね。ここ以外売り物になるのないよね」
といった声が寄せられている。
とはいえ中には、
「おいおい、いくらカネが必要だからって黒字企業売っ払って生き残れるのかよ」
といった、今後の東芝を心配する声も少なからずある。
東芝が生き残りを懸けた事業は、「エネルギー事業」と「ストレージ事業」が柱。簡単にいえば、原子力などの発電設備事業と、半導体の主力であるスマートフォン向け中心のフラッシュメモリーの2つだ。
東芝の今後について、栫井氏は「6兆円もの売り上げを有する大企業ですから、リストラをやりきれば(業績は)上向いていくでしょう」とみている。
ただし、現状では海外需要に期待する原発事業も、スマートフォン向けを中心とするフラッシュメモリー事業も収益的には安定していない。他社との事業再編を目論む白物家電やパソコン事業も、なかなか前進しない。業績次第でリストラを繰り返す可能性もあり、「そう生易しいものではないでしょう」とも話す。