政府は2016年3月4日、インターネット上の決済などで利用が急拡大している「ビットコイン」などの仮想通貨を規制するため、資金決済法などの改正案を閣議決定した。仮想通貨への初めての法的規制になる。仮想通貨は決済手段のひとつと位置づけられることになり、一段の利用拡大に弾みがつくとともに、金融とIT(情報技術)が融合する「フィンテック」の技術開発にも追い風になるが、悪質業者の監視などには課題も残っている。
資金決済法はプリペイドカードなどを対象とする法律で、金融庁は今国会に改正案を提出し成立を目指す。
マウントゴックスの破綻が規制の発端
仮想通貨をめぐっては、ビットコインの私設取引所だったマウントゴックス(MTGOX)が2014年に破綻。これが今回の規制につながったが、ここに至るには、仮想通貨をどう位置付けるか最大のポイントだった。
日本はこれまで、仮想通貨を単なる「モノ」とみなしてきたが、今回、不特定の者との間で物品売買時の支払いや法定通貨との交換に利用でき、電子的に移転することが可能な「財産的価値」と定義された。これは、あくまで「貨幣」(造幣局が発行するコイン)や「通貨」(貨幣及び日本銀行券)とは一線を画したものという。
具体的な規制の柱は、仮想通貨取引所の登録制を導入し、顧客の資産と自己資産をわける「分別管理」を導入すること。最低資本金をさだめるとともに、監査法人や公認会計士の定期監査も義務づける。利用者に対し仮想通貨の取引内容や手数料の情報開示も徹底するよう指導する。
取引所は預金保険法が適用される銀行と異なり、法律上は一般企業と同じ位置づけ。破綻した場合、民事再生や破産手続きなどが適用され、顧客は資産を失う可能性がある。実際の監督では、問題がある取引所の営業所に立ち入り検査を実施し、帳簿書類を検査できるとしている。悪質な取引所は行政処分を下し、業務改善命令を出したり、登録を取り消したりすることも可能とした。ただ、MTGOXのような悪徳業者をどこまで監視・監督できるか、疑問視する声もある。
「イスラム国」のテロ資金に使われた疑いも
法規制を迫られた背景の第一は、MTGOX社の破たん後も仮想通貨、とりわけその9割弱を占めるビットコインの取引が急拡大していることだ。現在、世界全体で約1000万人と利用者は1年間でほぼ倍増。日本でもビットコイン利用者は数万人に上り、主に国内の7取引所を経由して取引されているという。
利用者は携帯電話番号やメールアドレス、本人確認書類などをもとにビットコインの「財布」を作り、スマートフォンやパソコン経由で数十円単位から売買できる。世界では欧米の大手銀行を含め、仮想通貨は新たな決済手段として技術開発を急速に進めており、金融庁を監督官庁として、利用者保護を図り、技術開発も進める必要があった。
もう一つ、資金洗浄疑惑も、仮想通貨への規制を後押しした。過激派組織「イスラム国」(IS)へのテロ資金では仮想通貨が使われていると疑われることもあり、世界の金融当局がテロ資金を含む犯罪絡みの資金の規制を強化していて、主要7か国(G7)も仮想通貨の監視強化で合意している。今回の法案は、その流れで、安倍晋三首相が議長を務める5月下旬のG7の伊勢志摩サミットへの「手土産」に間に合うギリギリのタイミングだった。
「モノ」扱いのため消費税がかかる
実は、仮想通貨は税制上の課題も残している。というのも、今回の改正法案で仮想通貨を「財産的価値」と定義するとはいえ、通貨や貨幣ではないため、税法上はあくまで「モノ(資産)」のまま。このため、引き続き消費税がかかるのだ。
この点について16年2月の衆院予算委員会で与党議員に質問された麻生担当相は、仮想通貨に課税しているオーストラリアなどの国名を挙げ、「日本だけ(が例外)ということはない」と抗弁した。ただ、実際には、欧州の裁判所がビットコインを付加価値税(VAT)の適用除外とするなど、海外では非課税扱いが主流で、G7で課税しているのは日本だけ。普通の物品の輸入のように税関を通るわけではないため、海外の取引所から非課税で仮想通貨を購入しても、実態として課税できない可能性が指摘され、実際に海外から安く入手している利用者もいるという。何処まで厳しく監督するのか、世界標準に合わせて非課税にするか、難しい宿題が残された形だ。