世界の金融市場が不安定化する中で2016年2月末に中国・上海で開かれた主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、すべての政策を「総合的に用いる」ことを明記した共同声明をまとめた。その後の市場は、落ち着きを取り戻しているように見えるが、このまま安定に向かうのだろうか。
声明は、原油価格の急落などを受け「世界経済の見通しが一段と下方修正されるリスクが高まった」と警戒感を示す一方で、最近の市場の混乱は経済の実情を反映していないとして、市場の過剰反応をけん制した。ただ、今回のG20のテーマの主役は、主催国ともなった中国だった。
リーマン・ショックのような危機的状況ではない裏返し?
その上で、打ち出した方針は大きく3本だった。
まず、新興国経済を不安定化させている資金の流出を防ぐため、資本規制(資金規正)について検討を進めることを盛り込んだ。また、輸出競争力強化のために自国通貨の価値を切り下げる「通貨安競争」を回避する方針を確認。さらに、財政余力のある国々が財政出動で景気の下支えを図ることを求めた。
会議の結果を受け、日経新聞が「政策総動員」と見出しを売ったように、声明には、いろんなことをやるように書いている。ただ、「これまでの国際会議で使われた文言の使い回しが多く、具体性も乏しい」(国際金融関係筋)というのが玄人の見方のようだ。例えば財政政策について、米国は、ドイツなど財政余力のある国に財政出動を求めたが、財政規律を重んじるドイツは譲らず、日本はそもそも財政拡大の余地は小さいというように、足並みはそろっていない。「余力のある国は頑張る」と一般的に謳っただけで、具体策に踏み込んではいないのだ。これは、裏返せば「2008年のリーマン・ショックのような危機的な状況ではない」(同)ということでもある。
とはいえ、世界経済の抱える問題は無視できるわけではない。ザックリ言って、世界をかく乱しているのは中国経済と原油安だ。原油安も、もとをただせば中国経済の減速に伴う需要減が供給過剰を招いた面が大きいという意味で、中国経済の行方が、世界経済の今後を占う最大のポイントとになる。
人民元の規制めぐり、妥協が成立?
奇しくも、その中国がホスト国となった今回のG20で、中国経済はどう扱われたのか。
世界が注目したのが人民元相場だ。2008年のリーマン・ショック後、米国などによる金融緩和で新興国に巨額の資金が流入して成長を支えたが、15年来、資金の流れが逆転している。とりわけ人民元は15年夏の中国による実質大幅切り下げをきっかけにして急落し、金融市場の混乱の「震源地」とみなされている。米国の9年半ぶりの利上げ(15年12月)が、この流れを加速したが、米連邦準備理事会(FRB)はひとまず、利上げのペースダウンを打ちだしたので、人民元の動向が世界の注目点になっていた。G20が、その対策として打ち出したのが、新興国からの資金流出に歯止めをかける資本規制(資金規正)だ。
中国は近年、金融分野の規制緩和を進め、人民元の国際通貨化に励み、昨年、国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)の構成通貨の地位も得たばかり。規制強化はこの流れに逆行するだけに、中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は、公の場で「中国経済の成長力は強い。人民元はこれ以上下落する根拠はない」と繰り返し発言するなど、表向き、規制は必要ないとのポーズを見せてきた。とはいえ、現状でも一定の資本規制を残す中国にとって、「国際合意による規制」は受け入れやすく、足もとの人民元安を食い止める意味でも歓迎だったというのが本音だ。一方、市場を反映する人民元相場への移行を中国に求めてきた米国も、今回は一定の規制を黙認する姿勢を示した。「日本などの説得を受け入れた」(大手市経済部デスク)とされる。
ただし、今回の合意は、あくまで「規制の検討」についてで、実際にどのような規制が導入されるかは今後の話。つまり、人民元については「現行の中国当局の規制を維持するということで、各国も、それは結構ですと言っただけ」(国際金融関係筋)ということのようだ。