博多駅と長崎駅をつなぐ九州新幹線長崎ルートが、在来線特急と新幹線を乗り継ぐ「リレー方式」で「暫定的」に開業する方向となった。これにより、2022年春を予定する開業時期を死守できるとみられる。
長崎ルートの線路は本来、新幹線と在来線を併用して両方走れる「フリーゲージトレイン」(FGT)と呼ばれる車両を活用する計画だが、FGTの開発が遅れているために編み出された苦肉の策といえる。
間を通る佐賀県には、とくにメリットなし?
九州新幹線長崎ルートは博多駅から長崎駅まで、福岡県から佐賀県を経て長崎県にいたる143キロだ。九州以外の人に距離感が分かるように説明すると、東京―新富士間(東海道新幹線)が146キロ、大阪―大垣間(東海道本線)も146キロ。さほど遠くないかもしれないが、仕事や観光で「快速」などの在来線を乗り継いで行くにはややきつい距離だ。
「長崎新幹線」構想は、大きく3つの区間に分かれる。
(1)博多―新鳥栖<佐賀県鳥栖市>間(26キロ)は、時速270キロ以上で安定走行できる新幹線用に線路の幅が太い「フル規格(線路幅1435ミリ)」の九州新幹線鹿児島ルートを共用。
(2)新鳥栖―武雄温泉<佐賀県武雄市>間(51キロ)は直線で時速130キロで安定走行できる在来線(線路幅1067ミリ)を通る。
(3)武雄温泉―長崎間(66キロ)は再びフル規格の新幹線の新線を走る、
というもので、福岡県内は既存の新幹線鹿児島ルートを利用し、佐賀県内は大半が在来線を活用、ほぼ長崎県内に限って新線を建設する新幹線と言っていい。
なぜ全線フル規格でないか、というと地元の事情がある。「長崎新幹線」の中間の佐賀県民にとっては、福岡県や長崎県に行くのに劇的に時間が短縮されるわけでもないから、長崎新幹線ができるならそれはそれでうれしいけれども、だからと言っていろんな費用の負担をしてまで必要かなあ、というのが大方の受け止めのようなのだ。
さらに、長崎県北部の県第2の都市であり、米海軍基地や通販大手「ジャパネットたかた」の本社などがある港町、佐世保市(人口は長崎市の約44万人に次ぐ約26万人)にとって、今回のルートは極めて複雑な感情のからむ話だ。長崎新幹線はかつて日本の高度成長期に、佐世保市を通るルートで計画されていた。佐世保市はこれを何としても実現させようと1978年、長崎新幹線着工の見返りとして放射能漏れ事故を起こした原子力船「むつ」の修理を受け入れた。しかし、費用対効果の計算上、結局は採算がとれないとして1992年に佐世保市経由ルートの断念を受け入れた経緯がある。
日本発の「フリーゲージトレイン」開発は難航
こうした複雑な地元の事情を解決する手段するとして導入されたのが、全線フル規格にせず、在来線の線路を活用するFGTであるFGTの導入は長崎新幹線が国内で初めてとなる。現在の博多―長崎の所要時間は特急で最短1時間48分。FGTの長崎新幹線はこれを28分短縮し、最速1時間20分で結ぶ。用地取得不要な既存施設を生かし、新幹線と在来線の乗り換えが不要。佐賀県は費用負担を大きく免れ、佐世保市は在来線活用でFGT迎え入れに希望をつなぐという塩梅だ。
しかし今、最大の問題は肝心のFGTの開発がうまく進んでいないことだ。FGTの開発は国の事業として独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が主体となり、川崎重工業などの民間メーカーが加わる形で進められている。ところが、2014年10月に始めた耐久走行試験で車輪の揺れを抑える部品が破損するなどのトラブルが起き、走行試験は1年以上中断したままだ。
このため、国土交通省は15年末、2022年の全面開業は困難と公表。最近では、全面開業の時期は2025年春以降になるとしている。窮余の策として16年2月、リレー方式での2022年開業が方向付けられた。しかし、乗り換え時間が必要なリレー方式なら、博多―長崎間の時間短縮は現行最速から10分余りにしかならない。FGT開発の工程表も見えないまま、大きなプロジェクトが不安を抱えて進行しようとしている。