米国では乳がんの発症率が横ばいであるにもかかわらず、乳房を両側とも切除する手術を希望する人が増えていることが、2016年2月に米医療研究所・品質調査機構(AHRQ)が発表したデータでわかった。
女優アンジェリーナ・ジョリーさんが2013年2月に「将来の乳がん予防」のために全部切除したことが話題になったが、こうした手術が広がる背景には、乳房再建技術の発達と、彼女と同様に「不安を抱えるよりは思い切って...」という患者自身の意識変化があるようだ。
後で何度も検査するたびに不安になるよりは...
AHRQの発表によると、乳房温存手術も普及しているにもかかわらず、乳房切除手術を受ける患者の割合が、2005年から2013年までに36%増えた。健常人も含めた女性10万人あたりでいうと66人から90人に増加した。中でも両側乳房手術は10万人あたり9人から30人へと3倍以上に急増した。
「アンジェリーナ・ジョリー・ショック」のあった2013年には、両側切除が切除全体の3分の1を占めた。がんのないもう片側まで取ってしまう人が多いのだ。また、ジョリーさんのように遺伝的なリスクのある女性で、がんがなくても予防的に両側を切除するケースが10万人あたり2人から4人に倍増した。
米の専門家によると、乳房温存手術と切除手術では生存率はほぼ同じだ。それでも乳房切除を選択する人が増えているのはなぜだろうか。米ウィンスロップ大学病院のフランク・モンテレオーネ医師はこう説明する。
「乳房切除の必要がなくても、後で何度もマンモグラフィーや生体検査を受け、そのたびに不安になるよりは、切除してしまう方が安心できると考える女性は多くなりました。乳房再建技術が向上していますから」
ジョリーさんが受けた見た目が変わらない手術
「乳房両側切除」というと衝撃的だが、実際はほんの小さな傷が残る程度で、見た目は手術前とほとんど変わらないそうだ。ジョリーさんは手術後、2013年5月14日付ニューヨーク・タイムズに手記を寄せたが、その中で執刀したビバリーヒルズの病院が具体的な手術方法をこう公開している。
(1)2月2日:乳首と乳輪の下の組織を取り出し、病巣がないかを検査。なかったので乳首と乳輪をキレイに保存できることが判明。
(2)2月16日:約8時間かけて皮膚は保存、乳房の中身を切除して仮の詰め物をする。
(3)3月4日:(企業秘密のためか詳細は明記せず)ジョリーさんが「SF映画のシーンみたい」と言うほど、たくさんのチューブにつながれた状態での手術を終える。4日後、その姿のまま仕事に復帰。
(4)4月27日:最後のインプラントを詰め込み、乳房再建手術が完了。
病院の発表によると、乳房の中身を取り出すのに、バストトップ周辺など何カ所か切開場所の候補があるが、ジョリーさんは最も目立たない胸の下を選んだ。すべての手術にパートナーのブラッド・ピットさんが立ち会ったという。