電車のダイヤが乱れたり運行を見合わせたりする理由が「車内放送」されるなかで、「意味不明度」が高いのが「線路内への人の立ち入り」だ。そういったケースがこのところ相次いでいる。
朝の通勤客からすれば、意味不明の行為で自分の時間を奪われる形で、車内放送を聞いて「立ち入った人」に損害賠償を請求したい気持ちになった人も少なくないはずだ。
田園都市線運転士が横浜線の線路に人を発見
3月1日18時40分ごろ、JR総武線の各駅停車の電車が西船橋駅(千葉県船橋市)を出発直後に動けなくなった。その約20分後、乗客の1人がしびれを切らして非常用のドアコックを操作して線路に降り、30分後の19時30分頃に数キロ離れた線路上で発見された。この間、総武線は1時間10分にわたって運転を見合わせ、約7万5000人の足に影響が出た。1人の乗客の身勝手な行為が被害を拡大させた形だ。
翌3月2日朝には、1人の乗客の行為で複数の路線に影響が出た。長津田駅(横浜市緑区)は東急田園都市線とJR東日本の横浜線が乗り入れており、田園都市線の上り線のホームからは、前方右側に横浜線のホームが見える構造になっている。
東急の広報部の説明によると、8時過ぎに田園都市線上り線の運転士が、横浜線の線路に人が下りているのを発見。防護無線装置を操作して近くの電車を停止させた。この影響で田園都市線、横浜線ともに一時運転を見合わせ、20分程度の遅れが出た。横浜線の線路に入ってきた人は、結局は東急の線路には入ってこなかったという。
「弁護士と相談して事案ごとに慎重に対応を検討」
JR東日本の広報部では、いずれのケースについても
「警察には通報したが、それ以降の経緯は把握していない」
と話しており、線路に入った人は警察に引き継ぐ形で対応するようだ。
電車の遅れなどに伴う振り替え輸送や払い戻しなどの損害が出た場合、賠償請求については、
「損害などについて事実関係を把握し、原因が明らかになった上で、弁護士と相談したりしながら事案ごとに慎重に対応を検討する」
と説明。統一した対応方針があるというよりは、「個別対応」の結果として請求に踏み切るケースもあるようだ。東急は
「今回の件については請求していない」
としている。
こういった「線路立ち入り」の事案の数については、東急は集計しておらず、JR東日本は公表していないと説明している。このため、全体像を把握するのは困難だが、ここ1年で東急が配信した運行情報メールを集計すると、15年3月18日に中央林間駅、6月12日にすずかけ台駅、16年2月25日に市が尾駅~藤が丘駅間で「線路内人立入り」が原因でダイヤを見合わせたり運転を見合わせたりしている。3月2日の件を合わせると、少なくとも東急だけで1年に5件発生している。
しかし、「もっと頻繁に車内放送を聞いているような気がする」という人は少なくなく、 「痴漢が線路に逃げた」などの噂が飛び交うが、多くの場合、遅れた電車の乗客にとって真相は不明のままだ。