斎藤佑樹は二軍にいては価値のない投手
この両選手の姿は、プロ野球は過去より現在であることをはっきりと示しているといっていい。選手はみんな、現役をいつまでも続けたい、と思っている。
松中はその実績から引退試合が行われて当然の選手だった。そんなことより現役の夢を追った。プロの生き方の一つである。
思い出すのは野村克也の生き様だ。「生涯一捕手」と自らを奮い立たせてボロボロになるまでプレーした。野村も三冠王で、それは戦後初の快挙だった。
同じ三冠王の王貞治はシーズン30本塁打を放ちながらバットを置いた。
松中は王の秘蔵っ子だったが、バットマンとしては野村の道を選んだ。「太陽」よりも「月見草」である。
「(松中は)努力で成長した。それによって12球団ナンバーワンのバッターになった」
王の評価である。松中は喜んだことだろう。
一方、現役を続ける斎藤には茨の道が待っている。だれの目から見ても「今年が勝負のシーズン」だ。ペナント奪回を目指すチームにとって「打たれる」投手は必要ない。それを克服する挑戦が毎日続く。
15年はわずか2勝。それを含め4年間で13勝16敗。「ハンカチ王子」と呼ばれたころの甘いマスクはとっくに消えている。
「甲子園と神宮の優勝投手。それにドラフト1位入団。一軍で投げ続けるべきエリート投手で、二軍にいては価値のない投手なんです。それだけに首脳陣は扱いに頭を悩ませることになりますよね」
つまり本人も球団幹部も大変ということである。
プロ野球は2月のキャンプが終わり、3月に入ると、一気に本気モードに突入する。役に立たない余分なものを次々と削り落としていく。松中はそれを自ら受け入れ、斎藤は崖っぷちに立たされているといえよう。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)