毎日新聞が新年の連載の中で、日本人のイスラム教徒(ムスリム)を取り上げた記事をめぐり、取材を受けた女性が、話した事実とかけ離れた内容が掲載されたとして、2016年3月中に第三者機関「開かれた新聞委員会」で審議入りする見通しになった。取材を受けた弁護士の林純子さん(36)が、記事に意図しない内容が多々あり、指摘しても修正されなかったことをフェイスブックで明かし「非常に残念」とつづったことがきっかけだ。
この問題を、誤報を紹介・検証するサイト「GoHoo」を運営する日本報道検証機構が毎日新聞に指摘したところ、同紙は「誠に残念であり申し訳なく思っています」と陳謝。だが、毎日新聞側は「最終的にはご理解を得たと判断して記事化」したという認識で、両者の溝は埋まらない状態になっている。
「完全に忘れていた昔の話」が「忘れられない言葉」に
問題となっているのは、2016年1月4日朝刊に掲載された連載記事「憲法のある風景・公布70年の今」(全5回)の第3回目。林さんと「通信会社で働く女性」(33)の2人が登場し、日本国内でイスラム教徒として生活することの困難さを描いた内容だ。東京本社版には「信じる私 拒まないで」「イスラム教の服装、習慣 就活、職場で壁に」という見出しがついた。こういった見出しや記事の内容は、林さんらの話した意図とはかなり異なっていた、と林さんは指摘している。
例えば、記事では林さんについて、
「法律家を志した原点に、かつて言われた忘れられない言葉がある」
という記述がある。就職面接で女性が頭を布で包む「ヘジャブ(ヒジャーブ)」を着用していたところ、担当者から
「君の評価は高い。でも、それを着けたままだと、弊社の規則に引っかかる可能性があります」
と指摘され、外すつもりはないと伝えたところ、「会社から連絡はなかった」という内容だ。このことが「法律家を志した原点」と読める。
だが、林さんのフェイスブックでは、
「大学生の時の就活でヒジャーブについて言われたことは、私が弁護士を目指したことと全く関係がありません」
と指摘。「忘れられない言葉」という表現にも
「取材の中でも何時間もお話をした後にようやく思い出したような出来事で、完全に忘れていた昔の話です」
と明かし、林さんの認識とは全く逆の内容が記事になっていることを指摘した。
また、このエピソード自体も、林さんは記事とは逆の文脈で記者に話していた、という。
「私のことを評価し教えてくれた親切な面接官の方がいた、というポジティブなエピソードであり、当然ながら、この会社に対しても面接官の方に対しても良い感情しか抱いておりません」
林さんは、こういった点を記者に説明して変更を依頼したが受け入れられず、「非常に残念に思っております」とつづった。
もう一人の「通信会社で働く女性」については、「捏造」に近い問題が浮上している。記事では、女性が、「信じている人を拒む権利なんてないはず」と発言したとされている。だが、女性は日本報道検証機構に対して、こうしたコメントは「全くしていない」と指摘。掲載前に記事を見せるという約束も反故にされた。
「最終的にはご了解を得たと判断して記事化しました」
2月21日には、毎日新聞側と取材を受けた2人が、「機構」の関係者が同席する形で面会。この場で、毎日新聞は書面で
「記事掲載後、お二人からご不満の声が上がったことに鑑みれば、取材に不十分な点があったことは否めません。お忙しい中、記者の取材趣旨をご理解いただいて長時間、また数度にわたり取材に応じていただいたにもかかわらず、結果としてご不快な点が残る記事となってしまったことについては誠に残念であり申し訳なく思っています」
と陳謝したが、林さんについては
「表現についても取材上のやり取りの中で修正すべきであると考えた部分については書き換え、最終的にはご了解を得たと判断して記事化しました」
もう1人については、約束を守らなかったことについては陳謝しながらも
「記者は、取材に基づく記事でご了解いただける内容だと考えておりました」
などと正当性も主張した。こういった説明に2人は納得せず、毎日新聞の「開かれた新聞委員会」での審議を希望している。
委員会はジャーナリストの池上彰氏、評論家の荻上チキ氏、慶応大教授の鈴木秀美氏、ノンフィクション作家の吉永みち子氏で構成。
毎日新聞は3月1日現在、紙面での訂正や謝罪などを掲載しておらず、記事は現在もウェブサイトに掲載されたままになっている。この点も含めたJ-CASTニュースの取材に対して、毎日新聞社社長室広報担当は
「当該記事については、現在確認を進めておりますが、取材を受けられた方に不快な思いをさせて点につきまして、お詫び申し上げております。今月中に『開かれた新聞委員会』に審議をお願いする方針で、その結果を踏まえて対応を検討してまいります」
とコメント。委員会の審議結果によっては、記事が訂正される可能性もあると読める回答を寄せている。