死の間際に「お迎え」が来るって、ホント?

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人間に備わった死の恐怖を和らげる自衛作用

   このように体験談の多くは看取る側、看取られる側双方にのどかな雰囲気が漂い、患者たちが夢見がちに旅立った様子が感じられる。岡部さんらは論文の中で、「お迎え体験が、真実かどうか、どう解釈するかは別次元の問題として、患者や家族に苦痛を与えていないことが確かめられた。お迎えの中に患者の全人生が集約されている。『せん妄』と排除せずに、看取る側が、死に近づいた人の気持ちと寄り添う大切な方法だから尊重すべきだ」と強調している。

   お迎え現象は、2012年8月29日放送のNHK「クローズアップ現代」でも取り上げられた。岡部さんらの論文をきっかけに、看取りのあり方として注目した。番組には、肺がんで亡くなった母親の「お迎え体験」に立ち会った女性が登場し、こう語っている。

「亡くなる5日前に、母が『お友達がさっき来たでしょ』と言うんです。『えっ、来たの?』と聞くと、『うん、さっき来たよ』って。そのお友達は7年前に亡くなっているんです。私はギョッとしましたが、あまりに幸せそうに話をするの。4年前にがんが見つかって以来、まだ死にたくないと言い続けた母ですが、心が落ち着いたのか穏やかに逝きました。私も母のように死にたいです」

   番組ゲストには終末期医療に詳しい大井玄・東京大名誉教授が出演し、国谷裕子キャスターの質問にこう答えている。

国谷「自宅でお迎えを見る人が多いのはなぜでしょうか?」
大井「現在8割の人が病院で死んでいますが、病院は徹底的に管理された場所ですから、そういう現象は起こりにくい。自宅やついの住みかの老人ホームのように自然な安らげる場所で初めて起こると思います」
国谷「なぜ終末期の人に起こるのですか?」
大井「(幻覚を見るのは)人間に備わった心理的な自衛作用です。基本的に私たちの脳は記憶と経験に基づいて世界を再構築していますから、親しい人とつながったという感覚があると安心できるのですね。記憶と経験からお迎えの世界を見て、つながる。これはおかしくありません。子どもの時、お母さんが『大丈夫だよ』と言って膝小僧をさすってくれた時、痛みがなくなったように、非常に自然なことだと思いますね」

   2025年には団塊世代が70代後半となり、現在年間約120万人の死者が約160万人以上になる多死社会を迎える。いわば「死に場所難民」が増え、病院で最期を迎えるのは2人に1人といわれ、多くの人が自宅や老人ホームなどで看取られることになる。「お迎え現象」がいっそう身近なものになりそうだが、あたたかく受け止めたい。

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