かねてから発がん性が指摘されていた人工芝の問題について、米政府がようやく重い腰をあげた。2016年2月12日、米消費者製品安全委員会は環境保護局、疾病対策センターと共同で人工芝の充填(じゅうてん)剤の原料として使われている廃タイヤの化学物質の危険性について調査を開始すると発表した。
米メディアでは、人工芝の健康被害について報道が相次いでおり、今回の政府の調査開始は、事実上、がんとの関連性を認めたものと受け止められている。
女子キャプテンの怒りの調査が米政府動かす
米国では、子どもの公園から学校のグラウンド、アメリカンフットボールのスタジアムまで、いたる所で人工芝が使われている。人工芝の充填剤には、廃タイヤから作られるゴムチップが多く使用され、ゴムチップにはベンゼン、カーボンブラック、鉛などが含まれている。国際がん研究機関の発がん性リスク評価では、ベンゼンはグループ3(発がん性が分類できない)、カーボンブラックと鉛はグループ2B(発がん性が疑われる)だ。ゴムチップは、古びてくると微小な黒い屑(くず)となって空中に飛散し、選手の髪や服に付着、口の中から肺に入る。
2009年、ワシントン大学女子サッカー部に所属する2人のゴールキーパーが、悪性リンパ腫の診断を受けた。サッカー部の主将兼准ヘッドコーチのエイミー・グリフィンさんが、化学治療を受けている2人を病院に見舞うと、看護師からこう聞かれた。
「彼女たち、もしかしてゴールキーパーでは? 実は今週、ゴールキーパーが4人も入院してきました」
サッカーでは、ゴール前の攻防が一番激しく、ゴム屑が宙に舞う。グリフィンさんは「この黒い屑は発がん性物質に違いない」と考え、調査を開始、病気になったほかの大学のサッカー選手たちの記録をつけた。38人が治療を受け、うち34人がゴールキーパーで、すべてががんと診断されていた。血液性のがんであるリンパ腫や白血病が多かった。