「ベジブロス」は野菜の「ベジタブル」と、だしを意味する「ブロス」を組み合わせた造語である。
タマネギの皮やニンジンのヘタ、カボチャの芯とタネ......。普段は生ゴミとして捨てられる野菜くずが、実は栄養の宝庫なのだ。これらを「もったいない」の精神で、お宝スープとして再利用するのが「ベジブロス」だ。
皮やヘタ、種にこそ野菜の底力が詰まっている
「ベジブロス」という言葉を作りブームの火付け役となったのは、野菜を丸ごと食べる「ホールフード」を提唱している料理研究家のタカコ・ナカムラさん。もともとは、作家で料理研究家だった故・丸元淑生さんが1980~1990年代に提唱した「野菜くずはミネラルの宝庫。捨てずにストックをとり、コトコト煮込むスープ」がもとになり、現代風にアレンジした。
アンチエイジングが専門の順天堂大学大学院の白澤卓二教授も「新・家庭の医学」などの著書の中で、「皮やヘタ、種など従来、食べられないとされていた部分に野菜の栄養が凝縮されています。くずにこそ野菜の底力があるのです」とベジブロスを推奨している。
白澤教授によると、理由はこうだ。野菜には植物だけにある「ファイトケミカル」(フィトケミカルと呼ぶことも)という栄養素があり、非常に強い抗酸化力と免疫力がある。植物は、動物のように動いて外敵から逃げることができないため、紫外線や虫、細菌などから身を守る成分を自分で作りだしている。それがファイトケミカルだ。
ファイトケミカルは紫外線を直接受ける皮や、これから成長する種、ヘタ、根元の部分などに多く詰まっている。たとえば、血液をサラサラにする効果があるケルチンの場合、タマネギの皮の部分に中身の27倍も含まれている。
最近、テレビの健康番組で「ベジブロス」を取り上げるところが増えている。2016年2月13日放送の「華大の知りたい!サタデー」(BSフジ)では、タカコ・ナカムラさんの協力で作ったスープの健康効果を調べる実験を白澤教授が行なった。3人に250ミリリットル(缶コーヒー1本強分)を飲んでもらい、BAPテストと呼ばれる抗酸化力を測る血液検査を行なうと、3人全員の抗酸化力が向上、うち1人は13%もアップした。
5種類以上の「くず」で各野菜のうまみの相乗効果が
ファイトケミカルは野菜の細胞の中にあり、加熱によって溶け出す性質がある。だから番組で、白澤教授は「ベジブロスは体に必要なファイトケミカルがすでに溶け出しているので、吸収が早い、4~5時間おきに飲むと効果が持続します」と語っていた。また、ナカムラさんが、基本的な「野菜だしスープ」(ベジブロス)の作り方を紹介した。「農薬や雑菌を心配し、皮をそのまま使うことに抵抗がある人は、熱湯に水を足して50度くらいにまで下げたお湯で洗うと、雑菌や汚れが落ちやすい」とアドバイスした。
番組で紹介した「お好みだし・野菜くず5種以上」のレシピは次のとおりだ。
【材料】
タマネギの皮・ヘタ/ニンジンの皮・ヘタ/カボチャの皮・種/長ネギの葉・根/シイタケの軸/トマトのヘタ/カブのヘタ/水1.3リットル/料理酒小さじ1杯
【作り方】
(1)鍋に水を入れ、両手で軽く1杯分の野菜くずと料理酒を入れる。
(2)火をつけて、ふたをしないで弱火で20~30分煮る。
(3)30分たったら野菜を漉(こ)す。
野菜が煮崩れしないようコトコト弱火で煮て、栄養分を捨てないためにアクは取らないのがポイントだ。味噌汁や炊き込みご飯を炊く時使うなど、様々な料理のだし汁に使える。
2016年10月26日放送の「NHKあさイチ」でも、タカコ・ナカムラさんが出演し、ベジブロスを取り上げた。番組の中では「野菜くずスープ」の作り方とともに、応用編として「野菜の巾着煮」を次のように紹介している。
【材料】
ベジブロス(野菜くずスープ)200ミリリットル/油揚げ3枚/適量の野菜(何でもOK)/長イモ50グラム/薄口しょうゆ・みりん各25ミリリットル
【作り方】
(1)長イモをすりおろし、刻んだ野菜と合わせる。
(2)(1)を油揚げの中に入れ、具材が出ないように口を爪楊枝で止めたら、ベジブロス・みりん・薄口しょうゆの入った鍋に入れ、弱火で13分間煮る。
ベジブロスは野菜を選ばない。どの家庭でも出る「野菜くず」が材料となる。ただし、最低でも5種類以上の「くず」を使うようにすると、それぞれの野菜が持つうまみの相乗効果が出て、おいしく仕上がる。