アベノミクスにとっては「両刃の剣」の可能性
経常黒字は今後も拡大するのだろうか。今回の黒字は、東日本大震災前の2010年の約17兆円という水準をほぼ回復したことになる。しかし、2015年の貿易赤字額の減少分9.7兆円のうち、原油値下がりの効果が5.6兆円を占めている。ここまで下がり続けた原油もほぼ底値とみられるだけに、貿易赤字が減り続けるとは期待しにくい。訪日外国人の増加も円安頼みの側面があり、中国経済の先行き不透明感もあって、2015年のような勢いが続く保証はない。
投資のリターンである2015年の「第1次所得黒字」については、増加額2.6兆円のうち「約2兆円は円安要因」(エコノミスト)とされる。やはり円安から円高に流れが変われば、伸びが鈍化しかねない。
一方で、経常黒字自体が円高を招く懸念については見落とされがちだ。かつての日米貿易摩擦の時代のように、貿易黒字を稼ぎまくった結果として円高圧力が高まるような事態は想像しにくい。しかし、経常収支の悪化という近年の流れで円を売っていた海外のファンドのなかには、黒字拡大で円買いに転じる動きが見られるという。「日銀が金融緩和で円安に誘導しようとしても、経常黒字拡大からくる円高圧力にどこまで対抗できるか」(全国紙経済部デスク)との声もある。
国の稼ぐ力は強めなければいけないが、それで円高になるのも困る。円安を最大の支えにするアベノミクスにとって、経常黒字の拡大は諸刃の剣なのかもしれない。