大学受験から「願書」が消えるかもしれない――。ここ数年間のうちに、紙での受付手続を廃止し、「ネット出願」へ完全移行する大学が急増している。
2016年2月24日にも、早稲田大学と慶應義塾大学、立教大学の私大3校が、17年入学の一般入試の出願受付をネットに一本化すると発表したばかり。すでに、私立・国公立あわせて73大学が、紙の願書を廃止している。
旧帝大でも京大、九大が計画
大学受験における「ネット出願」導入の動きは、私大を中心に急速に進んでいる。大学受験専門誌「蛍雪時代」を発行する旺文社が15年9月に実施した調査によると、私立521大学のうち43.2%が16年度入学試験でネット出願を受け付ける。現時点では導入していないが「将来的に実施を検討している」と答えた大学も28.1%に達した。
また、同社が12月に行った調査によると、16年度入学の一般入試では私立・国公立あわせて73大学が、紙の願書を完全に廃止し、受付をネットに一本化したという。14年度入学試験に紙の願書を廃止していたのは近畿大と東洋大、中京大(一般入試のみ)の3大学だけだったことを考えると、「願書廃止」の動きは急速に広がっているように思える。
こうした動向について、旺文社は「受験者の利便性向上」と「大学側のコスト削減」が背景にあると分析している。具体的には、願書や受験案内を製造するコストを削減するとともに、願書の内容をチェックする人手を減らし、業務効率の向上を図る狙いがあるという。
一方で、国公立156大学のうちネット出願を実施している大学は約8%に留まる。その理由について同社は、
「私大のように別の学部を併願できないため、そもそもの志願者数が少なく、初期投資に見合うコスト削減効果が得られないため」
とみている。また、国立大の場合には「各大学が足並みを揃える」風潮があったため、私大と比べて導入が遅れた側面もあるという。
ただ、17年度入学試験からは、旧帝国大学の京大や九大でも導入されることが決まっており、こうした動きが他の国立大に波及する可能性は高いという。
近大は導入後に志願者が全国1位になったが......
また、ネット出願といえば、近畿大学が導入後に志願者を急増させた例から、「志願者数を増やすための施策」というイメージがある。
近大は13年度入学の入試で、ネットで出願すれば受験料を3000円割り引く「ネット割」を他大に先駆けて導入。この施策が大きな話題を集めたこともあり、14年度入学の出願数は前年の約22倍まで伸びた。さらに、15年度入学の一般入試の志願者数で、関西の私大としては初の全国首位に輝いた。
だが、旺文社は「志願者数増の狙いでネット出願を実施する大学は、現在ではほとんどありません」と否定する。ネット出願やそれに伴う割引を実施する大学が増え、目新しさが薄れたこともあり、過去のデータを見ても志願動向に与える影響は少ないという。
新たにネット出願の実施を発表した早稲田大学の広報課も、J-CASTニュースの取材に対し、志願者数の増減については「全く考慮していない」と断言。導入の理由については、
「受験者の利便性が向上することに加え、他の私立大でも導入の動きが進んでいるため」
と説明した。
結局、ネットでの出願が主流となり、紙の「願書」は消えてしまうのだろうか。旺文社は、応募者数が少ない大学がネット出願を実施するメリットは少ないので、「(導入は)全体の半数ほどで止まる可能性が高いのではないでしょうか」と話している。