東京に住む若者の自殺が深刻化している。
東京都は、自殺を防ぐためには社会全体で対策を進めていくために設置した「自殺総合対策東京会議 2015年度」を2016年2月22日に開催。東京の自殺の現状や自殺対策の取り組みなどについて、専門家らが意見交換した。自殺の理由はさまざまだが、東京都では全国に比べ、より多くの若者が自ら死を選んでいる。
30歳代以下の自殺者の比率が全国を上回る
内閣府の「地域における自殺の基礎資料」によると、東京都で2014年度に自殺した20歳未満は、前年度から20人増えて73人。20~29歳は34人減った(346人)が、30~39歳は4人増えて410人だった。このうち、「学生・生徒」の自殺は150人。前年から22人も増えている。
東京都の自殺者数は1997年の2014人から98年に2740人に急増。それ以降は毎年2500人から2900人が自ら命を絶つという深刻な状況が続いた。
ピークは2011年の2919人。その後、経済情勢の改善などで減少傾向に転じ、2015年は2471人まで減った。それでも、東京都が全国(速報値2万3971人)に占める割合で10.3%にあたり、最多のままだ。
そうした中で、東京都の30代以下の自殺者は、2014年の速報値で全体の30.3%を占めており、全国平均の26.3%と比べて若者の割合が高くなっている。福祉保健局は、「ここ数年の割合は約3割を占めて高止まりしています。若者の自殺はなかなか減っていきません」と話す。
東京都の10~30代の死因も、2014年は1位が自殺だ。「先進国の若者の死因をみると不慮の事故が多いのですが、それを上回っているのが現状です」と、福祉保健局の担当者はいう。ちなみに、「死因が自殺」は40代で2位、50代は4位で、上の世代に比べ若者が自殺で亡くなる率が高いことがわかる
東京都は「東京における自殺総合対策の基本的な取組方針」(2013年11月改正版)に基づき、電話相談やリーフレットの作成、大学生が主催するワークショップや講演会の開催などで「若者が孤立しない」よう工夫を凝らし、若者が自殺に追い込まれないよう対策を講じている。
たとえば、「若者の自殺は深夜帯に増える傾向にありますから、電話相談も深夜帯に受け付けられるようにするなど、悩んでいるときに、すぐに応じられる態勢を整えています」(福祉保健局)と説明。ただ、「自殺の原因はさまざまで、なかなか特定することはできません」ともいう。
そのうえで、学校生活でのイジメや進路の悩み、家庭での貧困や暴力・虐待、勤務先での長時間の過重労働やパワハラ・セクハラ、男女交際などの可能性をあげている。
東京では新年度を前にした3月の自殺者が最も多い
一方、こうした若者の自殺の背景に、過重労働を強いたり、残業代を支払わなかったりする「ブラック企業」の存在を指摘する声は少なくない。アルバイトに過剰な労働を強いては責任を押しつける「ブラックバイト」もある。
たとえば、大学入学と同時に上京。生活に慣れないうちにアルバイトで学費や生活費を稼ぐが、仕事に疲れて学業が疎かになり、しだいに身体的にも精神的にも大きなダメージを負ってしまうケースはよく耳にする。
東京都の自殺者を月別でみると、新年度を前にした3月が約10%と最も多く、次いで1月の9.2%、ゴールデンウイーク明けの5月(8.9%)、6月(8.8%)と続く。
過重な勤務がきっかけで、命を絶つケースは少なからずある。厚生労働省によると、2014年度に全国で認定された過労死は121件。この5年は120件前後で推移しているが、一方で過労自殺(未遂を含む)は14年度に99件と過去最多になり、10年前の2倍以上に急増した。しかも、99件のうち20~30代が42件と半分近くを占めている。
リーマン・ショック後の不景気のときには、働き盛りの中年男性が過重労働による心臓疾患などで急死したり自殺したりするケースが多かったが、アベノミクスによる回復基調を背景に中年男性の過労死や自殺が減り、最近は若者が精神的に苦しみ、うつ病を発症して死に追い込まれる「過労自殺」が増えているとされる。
労働問題に詳しいジャーナリストの小林美希氏は、「企業が人材育成に人や時間を割かないこと。それが勢い、パワハラなどにつながっています」と指摘する。
さらに、「最近は売り手市場なので学生優位にみえますが、大手企業はまだまだ強気です。入社してみて、『こんなんじゃなかった』ということもあります」と、若手社員と企業のギャップが広がっているともみている。