「皆さま、大好きです。温かく迎えてくださり、ありがとうございます」――。2016年2月22日、警視庁犯罪抑止対策本部の公式ツイッターアカウントの「中の人」が約8か月ぶりに投稿を再開した。
担当者の人柄が出た「ユルい」運用方針で人気を集めていた同アカウントだが、15年6月の投稿を最後にそのフランクな姿勢は一変、犯罪情報ばかりを投稿する「機械的」なアカウントに方針転換。ネットでは、公安委員会や警視庁本部に「担当者を復帰させて下さい」と嘆願書を送るユーザーが出るなど、復帰を望む声が広がっていた。
「フォロワー10万人の警部」として朝日新聞にも登場
犯罪抑止対策本部の公式アカウントは、2011年11月に開設された。当初は犯罪情報を発信するだけの「堅い」アカウントだったが、約1年後に方針を転換。「警察広報のスタイルを破る新たな実験」と称し、担当者の日常が垣間見える投稿や、一般ユーザーと積極的な交流を行う「ユルい」アカウントに変貌した。
それ以来、約2年半にわたって、
「この時間ですでに空腹です。早弁したいところですが我慢します」
「花金なので残業をせずに退庁いたします。合コンではありません」
「ぶどう(種なしデラウエア種)の汁がズボンに落ちました...」
などと、「ほのぼの」とした内容のツイートを毎日のように続けていた。また、ユーザーから寄せられた質問や相談にも丁寧に答えるなど、ネット上の「街のお巡りさん」という立ち位置で、幅広い層のユーザーに親しまれていた。
こうした運用を推し進めたのは、「甲さん」と呼ばれる担当者だ。15年2月27日の朝日新聞「ひと」欄にも登場し、「フォロワー10万人のツイッター警部」との肩書で紹介された。記事によると、「上司から『つまらない』とダメだしされた」ことをきっかけに、あえて私的な話題を投稿し始めたという。ちなみに、愛称の「甲さん」とは、投稿の末尾に署名として「(甲)」と記すことからきたものだ。
――そんな犯罪抑止対策本部のツイッターアカウントに異変が起きたのは、15年6月12日のことだ。
同日15時に投稿した「おやつの紹介」を最後に、甲さんの投稿がぱったりと途絶え、開設当初のように犯罪情報だけを機械的にツイートする状態になった。「別れの挨拶」や事前の告知もない唐突な方針転換に、ネット上では「心配です」「甲さん異動なの?」などと戸惑いの声が相次いだ。さらには、一部の熱心なファンの間で、公安委員会や警視庁本部に「甲さんを復帰させて下さい」と嘆願書を送る動きも出ていた。
「甲さんだ!お帰りなさい」「ずっと待ってましたよ!!」
甲さんのつぶやきが途絶えてから約8か月後の16年2月22日昼、何の前触れもなく、
「本日、直属の上司である管理官が定年のため職場を去りました。約2年間、陰になり日向になり、当アカウントを支えてくれた恩人です。どうぞいつまでもお元気で。本当にありがとうございました...(甲)」
というツイートが投稿された。末尾の「(甲)」という署名に気づいたフォロワーからは、「甲さんだ!お帰りなさい」「ずっと待ってましたよ!!」といったコメントが殺到した。
突然の復帰に反応したのは一般ユーザーだけではない。各都道府県警の公式ツイッターアカウントからも、
「おはようございます。甲さんが復帰され、また一段と楽しくなりそうですね。今日も炎のツイートがんばります!」(愛知県警)
「甲さん、復帰おめでとうっ!」(大阪府警)
「今日は定時で帰宅し、甲さんの復帰祝いをします」(熊本県警)
「えっ、えーーー...甲さん!? ご無沙汰しております...。(今日は、な、なんて日だっ!!)」(宮城県警)
などと祝福のメッセージが上がった。さらには、総務省のICT(情報通信)公式アカウントも、「甲さん、お帰りなさい!警視庁ツイッターは公式アカウントとして学ぶことが沢山あります、また色々と勉強させてください」とコメントした。
こうした温かい反応に、甲さんは「警察官を、そして当アカウントを担当していてよかった。今日は、パソコンのモニタがにじむ日です...」とつづり、目が潤むほど感激していることを報告。続けて、「皆さま、大好きです。温かく迎えてくださり、ありがとうございます」と感謝のコメントを投稿した。
翌23日にも、お弁当にお気に入りのおかずが入っていたことに喜ぶツイートを投稿するなど、以前通りのフランクな語り口で一般ユーザーと交流。本格的に「ツイッター警部」が復帰したことを受け、アカウントのフォロワー数も再び増え始めている。