厚生労働省が力を入れる地域包括ケアなどの医療構想はどのように進むと考えられるのか、その狙いや効果は? 日本を代表する医療経済・政策学者である二木立・日本福祉大学学長が2016年 2月17日、東京で開かれた医療介護福祉政策研究フォーラムで講演した。
15年10月に出版した著書『地域包括ケアと地域医療連携』(勁草書房)をふまえての内容だが、医療の行く末への懸念もうかがわれた。
財務省は強固な医療費抑制改革指向
二木さんによると、安倍政権の医療政策は、小泉政権時代からの公的医療費抑制・患者負担増と医療の営利産業化を引き継ぎ、加速させている。「社会保障」から「自助」へ、その自助も小泉政権の「個人」から「個人+家族」へと変質している。
小泉政権の「骨太の方針2006」では 5年間で1.1 兆円の社会保障費削減が衝撃となり、「骨太の方針2015」では数値は隠されているが、二木さんの計算では 5年間で1.9 兆円とさらに上回る削減になる。
地域包括ケア、地域医療構想は、そのための策ではあるが、二木さんは抜本改革は難しく、部分改革にとどまると予測する。療養病床を大幅に削減、在宅医療への転換も強制力はなく、また、在宅での医療費削減効果も疑問だ。県単位の地域医療構想推進のために、厚労省が診療報酬で病床減らしを誘導する可能性がある。
昨年 6月、政府の専門委員会が病院の必要性を見直し、病床を大幅に削減すべしと提唱し、医療界にショックを与えた。しかし、実際に病院を減らすのはさほど簡単ではなく、二木さんは中間あたりに落ちつくだろうと見る。
二木さんは今年 4月からの診療報酬にも言及した。引き下げの中心は薬価で、医療機関の診療報酬は維持されたのは、7月の参議院選挙や、病院経営悪化対策と考えられる。しかし、財務省は強固な医療費抑制改革指向を持っており、厚労省の抵抗が18年以降の診療報酬改定でも貫けるかどうか。医療関係者の監視や支援を強調した。
(医療ジャーナリスト・田辺功)