「甘いモノばっかり食べていると虫歯になるよ!」とよく怒られたものだが、実は、虫歯は「甘~いキッス」でもうつる感染症なのだ。
しかも、命に関わる恐ろしい病気で、決して「甘く見てはいけない」ことがわかってきた。
虫歯菌は口から脳内に侵入し血管を破る
虫歯がいかに危険な病気かを示す衝撃的な研究が、最近発表された。虫歯の原因になる「ミュータンス菌」が脳内で炎症を引き起こし、脳出血を発症させていることを国立循環器病研究センターのチームが明らかにし、英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」(電子版)の2016年2月5日号に論文を掲載した。
ミュータンス菌の中には、体の止血作用を阻害する特別の遺伝子「cnm遺伝子」を多く持つタイプがいる。このタイプのミュータンス菌は、血管壁のコラーゲンと結合して、血小板が出血を止める働きを妨げる特性がある。
研究チームはこの悪質タイプのミュータンス菌に着目した。同研究センターに入院した脳卒中患者99人を対象に、唾液に含まれるミュータンス菌の「cnm遺伝子」の量や、脳のMRI画像で脳内の出血状態などを調べた。すると、悪質ミュータンス菌が口の中に多い患者ほど、脳内の血管が破れる傾向が多かった。
悪質ミュータンス菌は口の中の血管から血流に乗り、脳の血管に到達する。そこでコラーゲンと結合して周囲の組織に炎症を起こす。そして、血小板の止血作用を妨げ、血管をボロボロにもろくして、脳出血を引き起こすのだ。
ミュータンス菌の中で悪質タイプは約1割いる。これまで脳出血は、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が原因となり、脳内の血管が痛んで起こるといわれてきた。そこに虫歯という意外な悪役が加わり、脳出血のリスクをさらに高めていたわけだ。今回の研究でも、血が固まって詰まる脳梗塞では患者の7%にしか悪質ミュータンス菌は発見されなかったが、血管が破れる脳出血では26%も見つかっている。
研究チームの猪原匡史・同センター内科医長は「口の中を清潔に保ち、しっかり虫歯を治療することが脳出血予防につながります」とコメントしている。
親が使ったコップや箸、スプーンから子にうつる
虫歯は放置していると歯周病につながる。歯周病は「口の中の生活習慣病」といわれ、糖尿病や心筋梗塞、ED(勃起障害)の原因になることが最近わかっている。また、虫歯の元のミュータンス菌は、胃がんの原因となるピロリ菌と並び「胃液が殺せない2種類の菌」の1つといわれ、非常にしたたかな菌なのだ。猛繁殖して全身の血管に入り、敗血症や肺炎を引き起こすこともある。菌が侵入した部位によっては、肩こり、腰痛、内臓疾患の隠れた原因になるなど侮れない存在だ。
虫歯は甘いモノを食べると自然に菌が繁殖すると思われてきたが、実は唾液を通してうつる「感染症」であることが最近わかってきた。ある歯科医のサイトにはこう書いてある。
「生まれたばかりの赤ちゃんには虫歯菌は存在しません。母親(保護者)の唾液を介して感染します。昔の子育てでは、離乳食に親が噛み砕いたものを子に与えることが日常的に行われましたが、とんでもない行為で、現在では口移しは絶対ダメと指導されます。親が使ったコップや箸、スプーンを子に使わせるのも間接的に虫歯菌をうつしていることになるのです」
もちろん、恋人同士のキスでも虫歯菌はうつるのだ。
「今まで虫歯がなかった人で、彼氏(彼女)ができたら急に虫歯になった人はよくいます。虫歯の進行度によって相手にうつす度合いは違ってきます。虫歯のひどい人は(キスを)控えた方がいいかもしれません。唾液には抗菌作用がありますから、唾液の量が多い人はうつされても虫歯になりにくいのです」
そして、恋人たちにはこうアドバイスする。
「虫歯を心配してキスをするなというのも寂しいですから、大切な人ができたら、カップル同士でまず口内をキレイにすることが大事ですね」