大震災後、いわき市は大津波と原発事故の主要な取材拠点・取材対象地域になった。日常のニュース報道だけでなく、新聞であればコラムや連載の、テレビであればドキュメント番組の――。
おととい(2月13日)の深夜、ETV特集「下神白(しもかじろ)団地の人々」を見た。登場した人物のなかにひとり、知り合いがいた。もしかしたら、と思って見ていたので、あわててカミサンを起こした。
「原発事故のため、いまなお10万人が避難生活を続けている福島。去年の2月、いわき市に、原発事故による避難者が入居するアパートが完成した。県営下神白団地である。/ここで暮らし始めたのは、事故を起こした第一原発に近い四つの町、富岡、大熊、双葉、浪江の住民、200世帯・377人。(以下略)」(番組のPR記事から)。その団地の1年を追った。
わが家の近くの借家(みなし仮設住宅)に入居していたおばあさんが、昨年(2015年)初夏、その団地に引っ越した。カミサンが店をやっているので、いつしか茶飲み話をしたり、愚痴をこぼしたりする間柄になった。同居人もいたが、ひとり小名浜の復興公営住宅に移った。
梅雨の晴れ間、おばあさんのアパートを訪ねた(=写真)。南向きの窓から海が見える。海風が涼しすぎるので窓は閉めている。同じ町の人が入居しているとはいっても、知り合いはいない。隣の棟にいとこがいる。毎日会っているのでさびしくはない、と語っていた。
それから8カ月。おばあさんは時折、バスと電車、あるいは親類の車に乗ってわが家へやってくる。電話もかけてよこす。テレビを見た限りでは、集会所でほかの入居者と顔を合わせているようなので安心した。
番組では、見知らぬ者同士だった入居者の交流の様子、老々介護、コミュニティ交流員やボランティアの姿などが描かれる。クリスマスパーティーの場に、見たことのある若者の顔があった。孤独死があったことも伝える。それでもなお、メディアはついに当事者の思いには触れ得ない、という感慨も覚えた。
表層・中層・深層――これはいま、私が思いついた3分類だ。通常のニュースは「表層」。連載やコラム、ドキュメント番組は、今までだと「深層」だったが「中層」。ほんとうはその先に、さわればやけどするような当事者の思いが渦巻く「深層」がある。
取材に応じてディレクターに本音を話したとしても、心に鍵をかけて見せないものがある。特に、自分の来し方行く末、コミュニティ内の摩擦やトラブルなどは、容易には中層、ましてや表層にあらわれない。昔、記者としてコミュニティを取材した経験と、今、行政区の小間使いとしてコミュニティに身をおいている立場からもいえることだ。
おばあさんは部屋を訪ねてきたディレクターに「(この窓から見える)夕日がきれい」といった。夕日がきれいであればあるほど入居者の寂寥感も深い。そう思えてならなかった。
(タカじい)
タカじい
「出身は阿武隈高地、入身はいわき市」と思い定めているジャーナリスト。 ケツメイシの「ドライブ」と焼酎の「田苑」を愛し、江戸時代後期の俳諧研究と地ネギ(三春ネギ)のルーツ調べが趣味の団塊男です。週末には夏井川渓谷で家庭菜園と山菜・キノコ採りを楽しんでいます。
■ブログ http://iwakiland.blogspot.com/