いわゆる従軍慰安婦問題をめぐる国連の委員会での日本政府代表の発言をきっかけに、2015年12月の「日韓合意」をめぐる微妙なさや当てが再び始まった。
日本側は「軍や官憲による強制連行は確認できない」とする従来の立場を繰り返したが、韓国メディアは「国際社会の常識を本格的に覆そうとしている」などと反発。これまでならば韓国政府も日本政府を非難するところだが、日韓合意で「互いに非難・批判することは控える」ことになったため、「発言を慎む」ことを日本に求めるにとどまっている。しかし、韓国メディアからすればこういった韓国政府の姿勢が「弱腰」だと映るようで、「強制連行なし」が既成事実化されつつあるとして危機感を強めている。
日韓合意では「本問題について互いに非難・批判することは控える」
ジュネーブの国連欧州本部で2016年2月16日に開かれた国連の女性差別撤廃委員会会合で、日本政府から出席していた杉山晋輔外務審議官が慰安婦問題に関する質問に答える形で、
「政府が発見した資料では、軍や官憲による強制連行が確認できるものはなかった」
などと述べた。この点は従来の政府見解を踏襲したに過ぎないが、「強制連行」説は故・吉田清治氏の虚偽証言が原因で広まり、吉田証言を事実として報じた朝日新聞社は14年になって誤報を認めたことも新たに説明した。
15年12月28日に日韓外相が慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決」することを合意した文言では、日韓両政府が「今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」とされていた。
今回の杉山氏の発言が「非難・批判」にあたるかどうかの解釈は、日韓で微妙に分かれているようだ。菅義偉官房長官は16年2月17日午前の会見で
「提起された質問に対し事実関係を述べただけであり、韓国政府を非難、あるいは批判するものに当たらないから、合意に反するものではないと思っている。いずれにしろ、日韓両政府は今回の合意を誠実に実施していく、このことが極めて重要だと思う」
と述べ、「非難・批判」には当たらないという立場だ。
これに対して、韓国外務省の趙俊赫(チョ・ジュンヒョク)報道官は同日、
「合意の精神と趣旨を損なうような言動を慎み、被害者の名誉と尊厳を回復し、心の傷を癒そうという立場を行動で示すように再度求める」
とコメント。杉山氏発言に強い違和感をにじませながらも、杉山発言が韓国政府に対する「非難・批判」にあたるかの判断を避け、日本政府に対する直接の批判も回避した形だ。
中央日報記者「慰安婦問題の本質や真実を強調する計画あるのか」
だが、世論のレベルでは日本政府に対する警戒感は露骨だ。ハンギョレ新聞は、
「『強制連行された』という生存者の証言を事実上否定して、『慰安婦=性奴隷=国家犯罪』という国際社会の常識を本格的に覆そうという動きに出ている」
という点で日本政府の対応がこれまでと変化してきていると指摘。日本政府は、慰安婦問題を
「日本軍が主体の『国家犯罪』ではなく、いくつかの業者の逸脱行為を政府が管理・監督していなかった、という次元の問題に矮小化することを狙っている」
と主張した。
聯合ニュースも「強制否定外交 本格始動」と題した記事で同様の主張を展開したうえで、
「韓国政府も、日本政府のこのような態度を以前ほど強く批判していない。最終的には『反論』の声がとぼしい状況で、安倍政権の主張が国際社会と日本の中で既成事実化が進むことが避けられないという懸念の声が出そうだ」
と指摘した。
2月18日の趙報道官の定例会見では、中央日報の記者が
「合意の精神を履行することとは別に、韓国政府も2月末に予定されている国連人権理事会といった国際社会を対象に説明できる機会を利用して、慰安婦問題の本質や真実を改めて強調する計画はあるのか」
と質問し、暗に「強制連行説」を国際社会で主張するように求めた。これに対して、趙報道官は「現在、検討中」と述べるにとどめた。