東京都大田区が2016年2月12日、旅行客を住宅の空き部屋などに有料で泊める「民泊」の施設として、条例に基づき、区内の2物件を全国で初めて認定した。国家戦略特区の仕組みを利用した旅館業法の特例だ。
ただ、現実に利用されている「民泊」をどう規制していくかは政府内でも意見が割れており、どこまで「認定民泊」が広がるのか、まだ先は見えない。
すでに年間50万人以上の訪日客が「利用」
認定第1号となったのは、インターネット宿泊仲介サービス「とまれる」(千代田区)が申請していたもので、JR蒲田駅から徒歩圏にある築65年の古民家を改装した約50平方メートルの平屋と、同駅近くのマンションの約26平方メートルの1K。同社は当面、大田区内で100室ほど営業したい考えという。
ただ、続々と認定民泊施設が生まれるかは微妙という。というのも、同区の制度は、(1)滞在期間6泊7日以上(2)部屋には火災警報器のほか避難経路や施設の使い方、ゴミの捨て方を英語などと日本語で併記した説明書を備える(3)事業者は急病などの緊急時に宿泊客からの相談をコールセンターで24時間受け付ける(4)近隣住民に対して事業計画を事前に書面で知らせる――など、厳しい要件があるからだ。
一方で、現実の「民泊」はかなり先に進んでいる。日本の民間のマンションや一軒家について、米国生まれの民泊仲介サイトAirbnb(エアビーアンドビー)で予約を受け、外国人旅行者が利用するケースは多い。こうしたサイトには、1年間に日本の5000人・社が部屋を貸し出し、50万人以上の訪日客が利用しているという。2000億円を上回る経済波及効果があるとの試算もある。
旅館業界は大反対、近隣とのトラブルも増加
民泊拡大の背景には、外国人旅行者急増によるホテル不足がある。2015年の訪日客は前年の1.5倍の2000万人近くになり、羽田空港を抱える大田区内のホテルなどの客室稼働率が90%を超えるなど、東京、大阪はもちろん、地方を含めホテルが足りず、なかなか予約が取れない。中国経済の減速や円高などの懸念はあるが、2020年の東京五輪に向け、訪日客は今後も増え続けると見込まれる。
一方、割安な民泊の普及は、既存の旅館などの経営を圧迫しかねず、業界を挙げた反対運動が続いている。また、大きな問題が騒音やゴミなど周囲住民とのトラブルだ。特にマンションでは、見知らぬ人が突然訪れ、住民が驚くことが増えている。エアビーアンドビーで予約する中には、予約したらオートロックの暗証番号を教えて、旅行者が自分たちだけで番号を打ち込み、マンションに入っていくというように、業者と顔さえあわさずに宿泊するようなケースも多い。これでは、住民とのトラブルが起きない方がおかしい。
厚労省と内閣府が対立、結論は参院選後に持ち越し
こんな実情の中、政府も検討を急ぐが、内部の足並みはそろっていない。
旅館業法を所管する厚生労働省は国土交通省とともに「民泊サービスのあり方に関する検討会」を立ち上げたが、トラブル防止に力点を置くなど、かなり厳しい規制を残す姿勢で、厚労省は1月25日の会合で、カプセルホテルなどと同じ旅館業法上の「簡易宿所」に位置づける方針を示した。具体的には、都道府県知事の許可制とし、宿泊者名簿の管理、非常ベルの設置などの施設整備を求める方針だ。ただ、営業許可を出す最低客室床面積は現行の33平方メートルより緩め、宿泊定員が10人より少ない場合、1人当たり3.3平方メートルとする方向だ。
これに対して内閣府の規制改革会議は、なるべく規制を緩めようという考えで、2015年12月、民泊を旅館業法の適用外とすることを求めた。旅館やホテルとの公平性にしばられると、自由な営業に支障をきたしかねないと懸念。現実には民泊利用が広がっている実態を追認し、緩く法の網をかける方が現実的、と判断している。内閣府の国家戦略特区諮問会議も、マンションでも民泊ができるようにすべきだとして、マンション規約の順守を求める国交省と対立している。
ただし、こうした対立は「想定の範囲内」(大手紙経済部記者)。もともと、まず厚労省などが主張する案、つまり旅館業法の枠内で走り始め、第2段階で、同法の適用から除外し、同法とは別の新たな民泊の規制を考える、というのが官邸を中心とした構想だった。厚労省などと内閣府・規制改革会議の対立は、この第2段階を見越しての前哨戦とみればわかりやすい。
第2段階として、官邸は新法の制定の可能性を含め、2016年度中に実施する方針だ。これは、「今年夏の参院選もにらんだ日程」(同)。民泊解禁への旅館業界の根強い反対を考慮し、選挙前に火種は持ち出さないというわけだ。