あまりその名を聞いたことがない、大学受験予備校の「AO義塾」がにわかに脚光を浴びている。
一般的な入学試験とは別の、出願者の人物像を重視するAO入試(アドミッションズ・オフィス入試)に特化した予備校だが、東京大学が2016年度に初めて実施した推薦入試の77人の合格者のうち、14人がAO義塾の受講生だったというのだ。
「東大法」合格者の半分を占める
「東大推薦入試の合否が発表され、AO義塾からは13名が合格しました」――。塾長の斎木陽平氏は2016年2月10日付のツイッターで、そう報告した(その後、もう一人が合格を報告)。
斎木氏は自身のフェイスブックでも喜びを伝えており、「初年度から圧倒的な合格者数を記録することができました。でも『記録』以上に、彼らの志や想いに胸が震えたひと時が僕のかけがえのない『記憶』として焼き付けられました」と、語っている。
AO義塾の東大合格者は、法学部が7人、経済学部1人、工学部4人、農学部が2人。
一方、東大が発表した各学部の合格者数(出願者数は173人)は、法学部が14人、経済学部は4人、文学部3人、教育学部4人、教養学部2人、工学部24人、理学部11人、農学部9人、薬学部3人、医学部3人の77人だった。
この中で、AO義塾生は法学部を受験した8人のうち、7人が合格するという優秀さ。法学部の合格者は全部で14人なので、じつに2人に1人がAO義塾生というわけ。経済学部や農学部も4人に1人、工学部も6人に1人を輩出していることになる。
AO義塾は、福岡県出身で慶応義塾大学大学院卒業の斎木氏が、自身がAO入試で苦労した経験から立ち上げた、AO入試に特化した大学予備校。東京・代々木に本校を構え、地方の学生にはSkypeを活用して受講できるようにした。
今回の東大の推薦入試では、法学部に合格した7人中3人が地方在住の受講生で、うれしさも一入だったようだ。
これまでも国公立大学や慶応大、早稲田大、上智大、国際基督教大などの難関大学のAO入試で実績を重ね、なかでも慶応大のAO入試では2015年度(4期生)に152人、合格率で86%と、2年連続の合格者数No.1を達成。16年度も126人の合格者を輩出し、3年連続を視野に入れている。
推薦・AO入試の難易度は「かなり高くなっている」
AO義塾の「快進撃」に、インターネットには、
「これはスゴイな。驚きしかない」
「AO義塾、英米型が強そうなので、東大推薦の次はアイビーリーグ・オックスブリッジの進学に力を注いで欲しい」
「でも、たぶんちゃんと受験しても合格してたんじゃないwww」
といった声が寄せられている。
とはいえ、どうしてこれほど多くの合格者を輩出できるのだろう――。AO義塾はホームページで、「学部や教授の理念や問題意識と照らしあわせ、ストーリーラインや内容面にまで踏み込んだ指導」を打ち出している。
塾長の斎木陽平氏は「『AO義塾』は合格がゴールと考える予備校とは違います」と言い切る。「これまでの入試は学力だけでした。(東大の推薦入試はセンター試験の点数8割以上が目安なので)センター試験も大切ですが、それに加えて、『なぜ東大に入りたいのか』、その動機や『将来どうしたいのか』を聞いて、総合的、多面的に人物を評価するようになったわけです。つまり、偏差値を問う入試から、『志を問う入試』に変わったということです」と説明。AO義塾で教えることは、「なぜ」「どうして」を問い続けて、将来、どのように社会に貢献していくのか、を考えてもらうための面接やディスカッションを繰り返すという。
大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は、「これまで『やさしい』といわれてきた推薦やAO入試の難易度は、最近はかなり高くなっています。それもあって、東大の推薦入試は注目されていました」と話す。
そのうえで、「ただ、ふたを開けてみたら、まず応募者数があまり伸びませんでした。その分、合格者も少なかったですが、これは受験者も勝手がわからず腰が引けていたのではないかと思います。そうした中で、AO入試に特化した塾が高い実績をあげて、確かにスゴイなと思うのですが、これが続くかどうか、またAOに特化する予備校が増えてくるのか、それを評価するにはまだ早いように思います」という。