飲料は「丸ごと体に取り入れられるものを」
NKアグリでは、「こいくれない」の開発に際して肥料や温度など栽培環境の条件をいろいろと変えながら、各種データを採取した。元の品種が持つ栄養のポテンシャルを最大化して、「食べるといいことがある」ニンジンを目指した。
難しかったのは栽培時期だ。種をまける期間が短いうえに、環境条件が合った場所で育てても収穫できる時期が1か月程度だという。栽培地を全国10道県に広げ、同時にどこで栽培しても等しく高い品質を担保しなければならなかった。そこで5か所の栽培地にセンサーを設置して環境面の情報を継続的に収集。最適な環境条件や、収穫に際して栄養価が最大化する時期を予測できるシステムを構築した。合わせて、各産地の生産者によって種まきのタイミングをずらしてもらうなど連携して出荷期間を延ばすよう工夫した結果、1年のうち6か月は「こいくれない」を供給できる態勢を整えた。
収穫後、日本製粉が品質を分析した。「こいくれない」は、生鮮野菜としてそのまま販売されるか、加工してジュースになる。前者はサイズが比較的小ぶりなものが選ばれる。今日では個食化が進み、ひと家族で1回の調理に使うニンジンは1本で十分だ。大きすぎると、消費者は生のまま使うのを敬遠する傾向にあるという。そこで、大きめのニンジンは加工用として活用される。ただし、栄養価や質の面ではサイズが違っても何も変わらない。
日本製粉では「こいくれない」を使う際、「丸ごと体に取り入れられるものをつくりたい」と考えた。検討の末に出した結論がジュースだった。飲料開発は初めてだったが、これまでの加工食品のノウハウを基に、成分を損なわずにおいしい味わいを追求した。ニンジンの「しぼり汁」ではなく食物繊維を残し、とろみのある「濃恋野菜こいくれない」として、2016年2月中旬に発売予定だ。主に中高年がターゲットだが、働き盛りの年齢層も野菜不足の人は少なくない。子どもも、野菜をおいしく摂取する機会になるとの期待が膨らむ。
生鮮野菜としての「こいくれない」は、ひと足早く2015年10月に販売開始し、今日では30都道府県のスーパーで売られている。三原社長は、「まずは国内での認知アップが目標。ゆくゆくは海外で栽培、販売を目指したい。またニンジンだけでなく品目を増やし、『形でなく栄養』という価値観でつくっている野菜の商品群を確立していけたらと思います」と話した。
「こいくれないはきっかけ」と、三原社長と紙透さんは声をそろえる。将来はニンジンにとどまらず、ユニークな野菜や食品が、両社のタッグで生み出されていきそうだ。