市販されている一般的なニンジンの色と比べて、赤みが深くて濃い。かじると、口の中に甘い味わいが広がる。NKアグリ(本社・和歌山市)が栽培するニンジン「こいくれない」は、見た目や味の違いに加えて、通常ニンジンには含まれていない「健康成分」も入っている。
商品化に向けた研究開発段階から、NKアグリは日本製粉(本社・東京都渋谷区)と協力体制を組んできた。生鮮野菜としての販売にとどまらず、「こいくれない」を100%使った加工飲料も開発した。
形がきれいにそろっていなくても...
抗酸化作用があるとされ、老化やがんの予防が期待される「リコピン」。トマトに多く含まれる成分として知られるが、「こいくれない」にも豊富だ。ニンジンとしては、極めて珍しい。
「こいくれない」を栽培するNKアグリは、写真処理機器の開発を手掛けるノーリツ鋼機(本社・東京都港区)が、農業分野を担う子会社として2009年11月に設立した。社長の三原洋一さんによると、「人のためになる、体にいいことがある食べ物をつくろう」が会社設立以来最大のミッションだ。以後、野菜の栽培、販売経験を積み重ねるなかで、従来のように形がきれいにそろって規格に合った野菜づくりに固執せず、形よりも栄養価をはじめ「中身」の充実を最優先させて消費者に新しい価値を届けようと取り組みを重ねている。
「こいくれない」は、もともと存在していたニンジンの品種だが、形がそろいにくいため大規模流通していなかった。代わりにリコピンを含む点が、他のニンジンと大きく違う。消費者は高い栄養価を望んでいるはずで需要はあると思われた。だが流通に乗っていなかった。「それなら自分たちでこの品種を徹底研究して、今までのニンジンの流通規格でない(新しい)規格を世に出していこうと考えたのです」(三原さん)。
同じ頃、勉強会に出席する中で日本製粉の研究者と交流が深まり、新たなニンジンの開発について相談した。日本製粉は小麦の研究を長年続けているが、一方で食品分野を広げており、各種素材の成分の研究を進めている。研究者は、三原さんの提案に興味を持った。「ただし当社は食品会社として、成分だけでなく『おいしさ』も重視します。(「こいくれない」の元となった品種の)ニンジンはおいしかったので、『これは商品につながる』と考えました」と、日本製粉事業開発部の紙透さち子さんは当時を振り返る。