富士通、東芝とソニーのパソコン事業を分社した「VAIO」(長野県安曇野市)の3社が、パソコン事業の統合に向け本格的な交渉を進めている。
パソコンは機能面で大差がない「汎用品(コモディティー)化」が進んで価格競争が激化し、利益が出にくくなっている。日本のパソコン勢が生き残りをかけて結集し、「日の丸パソコン」で再生を目指す。
3社の異なる思惑が「統合」に動く
3社とも基本的に統合に抵抗感は少なそうだ。富士通はパソコン事業を2016年4月に分社化すると発表済み。東芝は「制約を設けずに構造改革を進める」(東芝の室町正志社長)として、特に分社に前向きで、パソコン事業が不正会計問題の舞台になっただけに、分社は東芝再生のアピールにもなる。VAIOの筆頭株主である投資ファンド「日本産業パートナーズ」(JIP、東京・千代田)も、投資回収を考える上で、規模拡大は願ったりかなったりだ。
今のところ、富士通、東芝、JIPが各3割程度出資した持ち株会社を設立し、その傘下に3事業会社をぶら下げる方式を軸に検討しており、2015年度中に統合の枠組みを決めるべく、詰めの交渉を急いでいるとされる。国内外で開発から製造、販売までを一体で担う形を目指すが、国内工場などの集約は不可避とされ、こうした難題は統合後の課題として先送りすることになりそうだ。
3社が統合に向かう背景にあるのが、スマートフォンの普及に押されたパソコン市場の縮小だ。インターネットで検索するだけなら、わざわざパソコンを立ち上げなくてもスマホで十分で、家庭で10万円前後のパソコンを買う必要性は薄れてきている。
実現すればNECレノボから国内の首位奪う
米マイクロソフトの基本ソフト「ウィンドウズXP」(2001年発売)のサポート終了(2014年4月)に伴う買い換え特需が2014年6月に終わると、主要11社のパソコン国内出荷台数(電子情報技術産業協会まとめ)は前年を割り込み、2015年12月まで19カ月連続で前年を下回っている。2014年度の出荷台数は前年度比24.1%減の918万7000台で5年ぶりに1000万台を割り込んでおり、急減する需要を各社が激しく奪い合っているのが現状だ。
国内市場のシェア(IDCジャパン調べ)は、2015年9~12月期で、NECがパソコン事業を切り出し、2011年に中国のレノボと統合したNECレノボグループが首位でシェアは29.4%。富士通、東芝が2位、3位で続き、それぞれ17.1%、12.4%。VAIOは米HPやデルなどの米国勢よりも劣勢で1.3%の8位にとどまる。富士通、東芝、VAIOが統合すれば単純合計で30.8%と、国内ではNECレノボを上回って首位に立つ。部品調達に「規模の利益」が生まれ、間接部門のスリム化も収益改善効果がある。スマホに押されて縮小傾向とはいえ、企業向けを中心に市場が消えるわけではなく、3社が「日の丸パソコン」を立ち上げるのは合理的な判断と言える。
それでも、世界市場に目を転じれば、日本勢の劣勢は明らかだ。首位のレノボがシェアが2割程度。2、3位にHP、デルの米国勢がつけ、4~6位にエイサー、エイスースの台湾勢と米アップルが入る。日の丸3社連合となっても、合わせてシェア5%程度にすぎない。
いずれ海外巻き込み「再編第2波」が来る
「日の丸パソコン」が実現しても、バラ色の未来が約束されるわけではない。そもそも、コモディティー化の進展で、パソコンのハード自体の儲けは大きく期待できない中で、IBMはパソコン生産に見切りをつけてレノボに事業譲渡し、ITソリューションなどサービス企業に転換したように、クラウドなど新たな戦略をどう展開するかが課題になる。
そこで、強みをどう生かして相乗効果を生むかが鍵になる。東芝は、ノートPCで実績があり、北米市場を中心に「ダイナブック」は一定のブランド力を持つ。富士通は、国内生産の強みで保険、金融分野などに強い。VAIOは、ソニーの遺伝子を残して"尖った"製品開発が期待される。3社が、それぞれの技術やノウハウを持ち寄って新しいPCを創出できるか、注目される。
もう一つの注目点は統合会社の資本構成だ。VAIOに出資するJIPが統合会社の株主に名を連ねるのは確実だが、ファンドにとっては資金回収が最大課題。株式公開を含め、どんな「出口戦略」の絵を描くのか。業界では「いずれ海外勢を含めた再編の第2段階が来るかもしれない」ともささやかれている。