日銀は(2016年)1月29日、マイナス金利を導入した。その後、株式市場、為替市場は乱高下した。それでマイナス金利悪者論が闊歩している。
それらは世界経済の動きが原因であり、残念ながら日本の金融政策が世界を動かしているわけでない。
にもかかわらず、マイナス金利には否定的な論評が多い。
日銀当座預金に金利で「濡れ手に粟」
筆者は、この状況を揶揄して、2月3日に次のようなツイートをしたところ、これまでに1400を超えるリツイートがあった。この種の堅い話題では珍しい。
「マイナス金利。金融関係者から弊害とかの批判が出ているようだが、クソコメントだな。国債や日銀当座預金で運用して儲けている金融機関がおかしい。貸出してなんぼだろ。マイナス金利はそうしたぬるま湯体質の金融機関をしばくもの。これに文句をいう金融機関は逝ってよし」
多少言葉が不正確で乱暴なのはご容赦願いたいが、銀行を通してみると、マイナス金利の意味がよくわかる。テレビなどで、エコノミストらが批判するのは銀行の子会社にいて、親会社の銀行がマイナス金利を嫌っているからだ。
一般人が銀行に当座預金しても金利はつかない。ところが、銀行は日銀に当座預金すると、0.1%の金利が付いていた。銀行は一般人から当座預金ではゼロ金利であったが、それを仕入れとして、日銀に当座預金すると、0.1%の金利が付くので、濡れ手に粟だった。
この制度が導入されたのが、前の白川・日銀総裁時代の2008年である。
今回、マイナス金利を決めた日銀政策決定会合は象徴的だった。
賛成は、黒田委員、岩田委員、中曽委員、原田委員、布野委員。反対は、白井委員、石田委員、佐藤委員、木内委員。白井委員は学者出身であるが、石田委員、佐藤委員、木内委員は民間金融機関出身である。賛成には民間金融機関出身者はいない。賛成委員は安倍政権下で黒田体制になってからの任命、反対委員は民主党政権下で白川体制での任命である。
「個人の預金金利がマイナスになる可能性はない」
白川前総裁は、日本経済より銀行を優遇する政策を行ったが、この当座預金への0.1%付利はその典型だ。
銀行の日銀当座預金残高は250兆円。その大半に0.1%の金利が付いているので、これだけで銀行は年間2200億円の利益を得ている。そもそも、当座預金に金利をつけることがおかしい。
この付利は、次の金融緩和で見直される可能性がある。今回の騒動は、この2200億円を守りたい銀行が必死になっていると見たほうがいい。
あえていえば、一般人からゼロコストの預金を受け入れ、それを貸出にまわさず、日銀当座預金している銀行は社会的にはいらない。貸出先がないと仕事をしない銀行もいらない。金融再編で消えても一般人は困らない。
なお、日銀のマイナス金利政策の導入を受けても、個人の預金金利がマイナスになる可能性はない。マイナス金利になるなら、預金せずに、家の金庫に置いておいた方がいい。もしみんなが預金しなくなると、銀行は仕入れがなくなるわけだから経営できなくなる。だから、銀行は仕入れをするためにマイナス金利にしないはずだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、
いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。
著書に「さらば財務省!」(講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)、
「戦後経済史は嘘ばかり」 (PHP新書) など。