日本でも母乳のインターネット売買が問題なっているが、隣の中国でも最近、健康志向の高まりから母乳ブームが起こり、様々な波紋が広がっている。
富裕層の新たな「ぜいたく品」として注目を浴び、大人向けに母乳を提供する「乳母派遣会社」まで登場する過熱ぶりで、売春まがいとして警察が摘発するなど、いかにも中国らしい「母乳騒ぎ」がメディアを賑わせている。
街頭で胸をはだけ「公開授乳」するママ軍団
中国では産休期間が短いこともあり、母乳で育てる母親が少ない。2014年のWHO(世界保健機関)の調査によると、都市部では16%足らず、農村部でも30%にすぎず、国際平均の約40%を下回る。最近、粉ミルクに有害物質が混入する事件が相次ぎ、外国製粉ミルクを買い占める動きがある。中国当局は粉ミルクの広告を規制、「母乳育児の日」を設けるなど、母乳推奨策に躍起だ。
そんな中、2015年12月に北京の地下鉄車内で、胸をはだけて授乳している母親の画像が投稿サイト「微博(ウェイボー)」に載り、激しい論議を呼んだ。投稿者が「言っておきますが、ここはあなたの村のバスではなく、北京の地下鉄ですよ」と揶揄するコメントをつけたからだ。
さらに、地下鉄美化の推進団体が「性器を露出する恥ずかしい行為だ」と批判したことが火に油を注いだ。これには母乳育児を推進する市民団体が激怒、こう反論を書き込んだ。
「赤ちゃんは、お腹がすいた時にいつでもどこでもお乳を飲む権利がある」
「母が子にお乳を与えるシンプルで美しい行為を素直に見られないのか」
結局、投稿者は謝罪に追い込まれ、画像は削除された。
中国では、公共の場での授乳行為の是非をめぐり論議が盛んだ。2015年5月、福建省福州市の街頭で、赤ちゃんを抱いた80人のママ軍団がいっせいにお乳を与えるパフォーマンスを行ない、「公開授乳」をアピールしたこともある。
会員制「母乳パーティー」や「母乳アワビ」も
一方、「母乳ビジネス」の闇も広がっている。中国紙・新京報は2014年6月、「北京の成人向け『乳母』に迫る」と題する潜入ルポを掲載した。記者は、多くの「乳母サービス」のサイトの中から1つに100元(約1800円)を支払い会員になった。「顔写真」で1人を選び出し、ホテルに呼び出して「授乳サービス」を受ける仕組みだ。記事はこう続く。
「『乳母』は部屋に入ると、先に料金を要求。1000元を払うとすぐに上着をまくった。......その後『乳母』は1500元を余分に払えば、性的サービスもすると言った。また、仕事のために自分の子どもには1日1回しか授乳しない、そろそろ子どもは卒乳させて仕事の量を増やしたい、母乳は子どもにとって最も栄養価の高い食べ物、今はお客さんに飲ませているので、高いお金をもらうのは当然とも言った」
記事はさらに、こうしたサービスは北京、上海、武漢、深セン、南京など大都市に多くあり、複数の都市を飛び回る「人気乳母」もいると伝えている。
また、2013年7月の中国紙・南方都市報は、経済特区・深センで、富裕層向けに自宅に「乳母」を派遣して住み込ませるサービスを始めた業者を紹介した。乳母の報酬は月額1万6000元(約29万円)。一般中国人の平均月収の約4倍以上だ。乳母が「健康で美人」ならより高収入が見込めるという。
取材に対し、業者の林軍社長は「母乳は健康食品だ。乳母が家にいれば毎日新鮮なものを飲むことができる。胸から直接飲むのが恥ずかしければ、搾乳機で搾ったものを飲むことも可能だ」と説明している。
深センでは、富裕層の間で会員制の「母乳パーティー」が行なわれ、母乳で煮込んだ「母乳アワビ」を出すレストランもあるという。
「母乳ビジネス」は貧困女性を救う?
こうした「母乳ビジネス」の裏には大掛かりな売春組織があるとして、中国の警察当局は2014年9月、北京、河北省、広東省、湖北省、江西省などで一斉摘発に踏み切り、組織のメンバー15人と多数の女性たちを逮捕した。
これに対して、「母乳ビジネス」を擁護する論調もある。母乳は中国の貧しい農村部では古くから薬替わりに使われており、「母乳ビジネス」は貧困女性を救っているというのだ。中国のネット上では、こんな反発の声が出ている。
「こんなことに力を注ぐ暇があったら、もっと大きな問題に取り組め」
「弱いものいじめをしないで、巨悪にメスを入れろ」
実際、大規模な取り締まりが報道され、「母乳ビジネス」の存在が人々に広まったこともあって、インターネット上では「母乳を売りたい」という女性が増えているそうだ。