「日の丸」か、外資か――。経営再建中のシャープが、なんだか「モテモテ」だ。
2016年2月4日の記者会見で、経営再建の支援先について高橋興三社長は、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との交渉を優先する考えを明らかにした。これまで官民ファンドの産業革新機構による再建案が優位とみられていたが、土壇場で逆転。すっきりしたのか、会見での高橋社長は饒舌だった。
もはや「日の丸」救済の時代ではない?
シャープの経営支援をめぐっては、官民ファンドの産業革新機構が3000億円規模、台湾の電子機器受託製造サービス(EMS)大手の鴻海精密工業が7000億円を出資する支援案を、それぞれ提示していた。
記者会見で高橋興三社長は、「現時点では鴻海にリソース(人員など)をかけている」と述べ、鴻海が「優位」であることを示唆した。
鴻海との提携のメリットについて、「共同運営している、パネル製造のSDP(旧シャープ堺工場)や、それ以外の鴻海の液晶工場と協業できる。液晶以外の分野も、鴻海の巨大な部品調達力や生産力を活かせれば、シナジーは大きい」と説明。一方で懸念されている、節電性能に優れた独自の液晶「IGZO」などの技術が海外に流出するとの声には、「SDPでもこれまで技術流出はなかったし、お互いに尊重しており、信頼関係を築くことができている」と話した。
シャープはこれまで、産業革新機構による再建案を軸に検討していた。しかし、その提案はシャープが抱える借金の一部を、銀行が帳消しにすることを条件としており、みずほ銀行と三菱東京UFJ銀行がこれに難色を示していた。
高橋社長は「金額の多寡がすべてではない」としたが、鴻海の提案は、銀行にとって債権放棄が一転、逆に債権が回収できる可能性が高まったのだから大歓迎だろう。
シャープは鴻海に事実上買収されることになるが、事業は売却せず、「シャープ」ブランドも維持。雇用も確保する。さらには、経営陣の退任も求めていないというのだから、断る理由が見つからないほどの好条件だ。
企業アナリストの大関暁夫氏は、「条件のいいほうを採用するのは経営判断として間違ってはいません」という。
そのうえで、「銀行が債権放棄して、産業革新機構が支援する。そいった国をあげて救済する時代ではなくなったということでしょう。たしかにシャープが破たんすれば、影響を受ける中小企業は少なくありませんが、一方で大企業が生き残りのために借金を棒引きしてもらうことを『おかしい』と思っている人は多くいます。また、技術の海外流出を懸念する人もいますが、いまやもう(技術やノウハウを公開する)オープンソースの時代ですからね。思っている以上にこだわらなくなっているのではないでしょうか」と話す。