甲子園、プロ野球のホームランバッターで、一時代を築いた清原和博元選手が覚醒剤で逮捕され、犯罪容疑者に姿を変えた。実は有名選手の末路の一つなのである。
「清原、覚醒剤所持の疑いで逮捕」。2016年2月2日夜の出来事である。容疑を認め、素直に話しているという。あえて清原と呼ぶ。
プロ野球界は「来るべき時が来ただけ」と受け止め
左手に注射器とストローを持っており、注射器2本と黒ずんだパイプ1本が見つかった――。
警視庁による逮捕時の状況だ。生々しい。
「注射器は腕に覚醒剤を注射するため、パイプは覚醒剤をあぶって吸うために持っていた」
清原は取り調べに対し、そう語っているそうだ。常習の可能性もある内容である。
「球界にショック」
メディアは一斉にそう報じた。しかし、実態は違う。
「うわさ通りか」
「来るべき時が来ただけ」
そんな冷めた感想が多い。メディアの取り上げ方に対しても、「取って付けたような驚きやショックだな」という声は少なくなかった。
清原のブログに書かれた「子供と食事」だとか「さみしい」などについても冷ややかな感想が聞かれた。
私ごとだが、少年野球チームのかかわりで、清原とはグラウンドでは会話を交わしたり、キャッチボールをしたりしたこともあった。彼は打撃投手をしてくれたし、打撃指導もときにはしていた。
ホームランを打った選手とハイタッチをしながら「ナイスバッティング」と声をかけるし、激励の声援を送る。その一方で、試合中に相手チームを野次ってひんしゅくを買ったこともある。
どちらも清原の姿なのである。野球が大好きで、たとえ少年野球でものめり込んでしまうのだ。
「監督をしたい」との強い思い
ところが、名声の割にはプロ野球の指導者としての声が全くといっていいほどオファーはなかった。「監督をしたい」との強い思いと大変な距離があったように見えた。
「引退して目標がなくなったが、それは巨人で打てないときボロクソに言われたときよりきつい」
清原の述懐である。子供のころからずっと周りに人がいたのが、ユニホームを脱いだ途端、自分一人になり、先行きに不安が生じる。実績のない選手だったなら野球の世界に別れを告げ、一般社会で再出発するのに抵抗はない。
ところが清原のようなスーパースターだった選手は、いつまでも野球にこだわる。それで望む仕事がなければおかしくなるのだろう。バットで相手投手を打ち込めば褒め称えられる勝負の世界とは、まるで異なる社会で暮らしていることが理解できなかったのだと思う。
つい先日、日本野球機構(NPB)は、若手選手を対象に「引退後のセカンドキャリアに対する意識調査」を行った。「引退後に不安」が72・7%で前回よりも3・4%増えた。「引退後の希望進路」では、1位と2位が「高校野球の指導者」「大学・社会人野球の指導者」。
野球の世界で生きたいとの願望がやはり強い。現実的にはプロでもアマでも指導者になるのは狭き門であって、希望を叶えることができるのは一握りの中の一握りといったところだろう。
裁判で処分を受けた後、それこそ独自に生きなければならなくなる。NPBはこのキャンプで野球賭博など有害行為にかんする講習会に、薬物使用のメニューを加えた。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)