国立大学法人の新潟大学は、財政難を理由に、2016年春から2年間をめどに、定年退職する教授が出ても教員の新規募集や内部昇任などの人事を凍結する。
国からの運営費交付金が減少したのに対応し、人件費を抑える措置だが、全国の国立大学法人が加入する国立大学協会は「(経費削減で人事を凍結したケースは)これまで、聞いたことがありません」という。
新潟大への運営費交付金、15年度は134億円 12年間で7.6%減
新潟大学が教員人事の凍結を決めたのは、学部長らが重要事項を審議する教育研究評議会が開かれた2016年1月28日で、即日実施に踏み切った。
人事凍結の背景には、国立大学の収入の約3~4割を占める、国からの「運営費交付金」の減少がある。新潟大によると、同大の運営費交付金は国立大学法人に移行した2004年度の145億円から、15年度は134億円に減少した。
一方、同大の教員の定年退職者は毎年20~30人で、人件費の削減効果は年間で数千万円から億単位になるとされる。今後も厳しい状況が予想されるため、退職する教員の補充を控えることで人件費を抑えることにした。
ただ、決定が1月だったため、3つの教員組織(人文社会・教育科学系、自然科学系、医歯学系)ごとに空きポストが5つ出た場合や病院診療の担当教員に欠員が出た場合、配置数が国の設置基準を下回る場合――などは例外として新たな配置を認める。
支障がある場合は非常勤講師などで補うほか、3か月ごとに教員の配置や財政状況を確認して必要に応じて見直すともいう。
具体的には、大学では現在、電気情報工学系列の教授を1人募集(3月31日締め切り)しているが、この募集を最後に、原則教員の採用を凍結することになる。
高橋姿学長は今回の人事凍結について、「あくまで短期的な対応」と強調したうえで、「教員の給料や教育、研究の質を下げないための苦渋の判断」と話す。
新潟大は16年1月から、これまでの学長らからの勧奨退職に代わって、50歳以上を対象とする教職員の早期退職制度を導入。大学側は「(この制度は)退職を促すものではない」と話しているが、経費削減のため、人件費に手をつけざるを得なくなってきたようすがうかがえる。
さらには、教員が実験に必要な消耗品を「自腹」で購入するなどのケースも生じているらしい。大学側は「すべてを把握しているわけではありません」としたうえで、「予算が回らない時期にそういったことはあるかもしれません」と、こうした話を耳にしたことがないわけではないと話す。
財政難は「新潟大学に限ったことではありません」
新潟大学の「人事凍結」を受けて、インターネットではその衝撃が広がっている。
「なんで国立大学法人の新潟大学が財政難?」
「地方の有力国立大学でもこの状態かよ・・・」
といった驚きの声や、
「こんなんで新潟大はまともな教育できんの?」
「しわ寄せが行くのは若手の教員ってわけだ。文科省はどう思っているんだろうな」
「こんな事態に陥っている大学に、受験生は魅力を感じるだろうか?」
「教員が退職、補充なし→教員数が減少→一人あたりの仕事が増える→教育研究成果が上がらなくなる。負のスパイラルだな」
「削れるところって他にもあるような気がするが・・・」
などの嘆きや、教育への影響を憂う声も数多く寄せられている。
とはいえ、国立大学の財政難は「新潟大学に限ったことではありません」(国立大学協会)。大学が経費節減のために、古い機材を更新しないで使いまわすようなことは珍しくなく、今後はさらに厳しくなることが予想されている。
財務省によると、2015年度の国立大学法人の予算収入(研究機構を含む90法人)は全体で2兆4650億円。このうち、運営交付金は1兆945億円と44.4%を占めている。残りは授業や入学検定料の3666億円(14.9%)や附属病院収入の9786億円(39.7%)などの自己収入になる。
この運営交付金を2031年度までに約9800億円にする方針で、今後毎年1%ずつ削減する。すでに2004年の法人化以降の12年間で1470億円(11.8%)が削減され、加えて消費税率の引き上げや諸経費の値上りで、人件費や教育研究費など大学の運営基盤は急激に脆弱になっている。
その一方で、財務省は自己収入を毎年1.6%増加させるよう提案が示しているが、16年度以降の新たな財源として期待できるのは、「税額控除が認められるようになった寄付金ぐらい」。ただ、寄付金収入は「個々の大学で異なりますが、現状でも数%ほどだと思います」(国立大学協会)とわずか。減っていく運営交付金の穴を埋めるには心もとないかもしれない。
生き残りには、学生数を増やすか、経費削減を続けるしかないようだ。