「ホームラン打たずに覚醒剤打ってたのか」「覚醒剤もホームランも打ってた訳だな」――。覚醒剤取締法違反容疑(所持)で逮捕された元プロ野球選手の清原和博容疑者(48)に対し、こんな声がネット上で飛び交っている。
清原容疑者は現役時代、「覚せい剤打たずにホームラン打とう」をキャッチコピーにした警察庁の覚醒剤追放ポスターに起用されていた。このポスターが登場した1987年には、「まるで清原が覚醒剤を打っているようではないか」とファンから苦情の声が相次いだ。今となっては、何とも皮肉なエピソードである。
警察庁が7万5000枚作って全国に
清原容疑者が登場する覚醒剤追放ポスターは、1987年に警察庁が作成したものだ。同年7月9日の読売新聞夕刊(東京版)によると、このポスターは警察庁が7月の「覚せい剤等薬物防止強化月間」にあわせて7万5000枚を作成。大阪府など全国の自治体が買い取り、公共施設や学校などの掲示板に張り出していたという。
ポスターには、西武ライオンズのユニフォームを着た清原容疑者がフルスイングする写真が大きくデザインされ、その下に「覚せい剤打たずにホームラン打とう」というキャッチコピーが記されていた。
このとき清原容疑者は19歳で、現在とは正反対ともいえる「真面目で爽やかな好青年」のイメージで親しまれていたという。こうした印象がポスター起用の背景にあったようで、警察庁保安課は当時の読売新聞の取材に、「清原選手のように屋外で明るく汗を流そうと呼びかけたつもり」と説明している。
覚醒剤撲滅を象徴するキャラクターとして起用された野球選手が、現役引退後に覚醒剤所持で逮捕されてしまった。その後、清原容疑者が実際に覚醒剤を打っていたとの報道も出始め、ネット上では、
「清原はホームランの代わりに覚醒剤打ってサヨナラをキメるという野球人生を送ったのだった」
「覚醒剤とかけましてホームランとときます その心は どちらも清原が打ちまくったでしょう」
といった声が相次いで寄せられている。
故中島らも氏の「酷評」でポスターの存在が広まる
実は、このポスターは作成された当時から「いわくつき」の品だったようだ。上述の読売新聞の記事によると、清原容疑者の地元・大阪のファンから「今まで覚醒剤を打っていたかのような表現だ」「覚醒剤の力でホームランを打っていたみたいではないか」といったクレームが大阪府へ寄せられたのだという。
当時ファンからの苦情が相次いだと報じられている大阪府の薬務課は、J-CASTニュースの取材に対し、
「清原選手を起用したポスターが存在し、過去に掲出していたことは確かだと思われます。ですが、当時の関係者全員がすでに退職していますので、苦情が寄せられたなどの具体的な話は誰にも分かりません」
と答えた。また、ポスターを作成した警察庁の広報課にも取材を試みたが、「すぐに取材に答えることはできない」という。
30年近く前に作成されたポスターだけあって、関係各所すらその詳細を把握していない。また、実物を撮影した画像なども、ネット上にはアップロードされていないようだ。――では、なぜ現在も多くの人がこのポスターの存在を知っているのだろうか。その背景には、小説家・コピーライターとして活躍した故・中島らも氏の存在がある。
中島氏は複数の著書のなかで、「覚せい剤を打たずにホームランを打とう」というキャッチコピーを繰り返し酷評している。1993年発売のエッセイ集『しりとりえっせい』では、「こんなものを見て覚せい剤から手をひく人間が1人でもいるのか」「血税を使ってくだらんポスターを作るな」と痛烈に批判。同様の記述は89年の『変!!』、94年の『こらっ!』、95年の『アマニタ・パンセリナ』など多くの著作で見られる。
こうした中島氏の執拗な「口撃」が、清原容疑者を起用したポスターの知名度を広げていったとみられる。また、中島氏は「覚醒剤から更生した人を起用した方がいい」という趣旨の代案も出していた。清原容疑者が逮捕されてしまった今となっては、何とも意味深な提案である。