故中島らも氏の「酷評」でポスターの存在が広まる
実は、このポスターは作成された当時から「いわくつき」の品だったようだ。上述の読売新聞の記事によると、清原容疑者の地元・大阪のファンから「今まで覚醒剤を打っていたかのような表現だ」「覚醒剤の力でホームランを打っていたみたいではないか」といったクレームが大阪府へ寄せられたのだという。
当時ファンからの苦情が相次いだと報じられている大阪府の薬務課は、J-CASTニュースの取材に対し、
「清原選手を起用したポスターが存在し、過去に掲出していたことは確かだと思われます。ですが、当時の関係者全員がすでに退職していますので、苦情が寄せられたなどの具体的な話は誰にも分かりません」
と答えた。また、ポスターを作成した警察庁の広報課にも取材を試みたが、「すぐに取材に答えることはできない」という。
30年近く前に作成されたポスターだけあって、関係各所すらその詳細を把握していない。また、実物を撮影した画像なども、ネット上にはアップロードされていないようだ。――では、なぜ現在も多くの人がこのポスターの存在を知っているのだろうか。その背景には、小説家・コピーライターとして活躍した故・中島らも氏の存在がある。
中島氏は複数の著書のなかで、「覚せい剤を打たずにホームランを打とう」というキャッチコピーを繰り返し酷評している。1993年発売のエッセイ集『しりとりえっせい』では、「こんなものを見て覚せい剤から手をひく人間が1人でもいるのか」「血税を使ってくだらんポスターを作るな」と痛烈に批判。同様の記述は89年の『変!!』、94年の『こらっ!』、95年の『アマニタ・パンセリナ』など多くの著作で見られる。
こうした中島氏の執拗な「口撃」が、清原容疑者を起用したポスターの知名度を広げていったとみられる。また、中島氏は「覚醒剤から更生した人を起用した方がいい」という趣旨の代案も出していた。清原容疑者が逮捕されてしまった今となっては、何とも意味深な提案である。