財務省は自他共に認める最強官庁だ。予算査定権があるので、予算交渉で財務省のカウンターパートより、相手省庁は一ランク上の者が対応する。こうした状況から、かつての財務省では「われら富士山、他は並びの山」という言葉もあった。
ただし、最近はだいぶ状況は異なっているようだ。たとえば、軽減税率の議論。昨(2015)年9月、麻生太郎・財務大臣が、マイナンバーによる還付案を発表した。筆者はとても驚いた。
「財務省も劣化したと思っていたら...」
まず、その時点で制度ができてもいないマイナンバーを前提としたことだ。財務省は実務を重視するので、安定した(枯れた)制度で政策を考えるのだが、それにまったく反している。
次に、全国民に還付を強いることだ。今はないが、かつて財務省キャリアは20歳代で税務署長を経験する。今の財務省幹部は税務署長を経験し、還付事務の現場を見ているはずだ。そうであれば、全国民に還付しろと言うのは実務が回らないのはすぐわかる。
この案を見て財務省も劣化したと思っていたら、その後の軽減税率議論でも、財務省は官邸に完敗した。
財務省は借金1000兆円と煽って、マスコミを使って増税と言い続けてきたが、それも無理がでている、筆者はかねてより借金1000兆円は、バランスシートの右側の負債の数字で、左側の資産を考慮すればそれほどでもないといってきた。昨年、現代ビジネス(12月28日)でそれを書いたら、1週間で1000万PV以上も読まれたそうだ。最近、フォロワー180万の田村淳(@atsushilonboo)さんも読んだようだ。
そもそも、バランスシートの右側の負債だけをいって、それを増税で返すというのは、右側の資産を温存することになる。資産の内訳は、天下り法人への資金である。つまり、資産の温存は天下り先の温存である。こうした基本も知らずに、マスコミは借金1000兆円という財務省の口車に乗っているのは情けない。
修正された負担額・負担軽減額
また、国会でも増税での数字の妥当性に疑問が出ている。財務省は、当初、1人あたりの消費増税による負担増は1万4000円、同じく1人あたりの軽減税率による負担軽減額は4800円であるとしてきた。
ところが、共産党から、1人あたり4800円に人口をかけると6000億円で、軽減税率による減収額1兆円より少ないと突っ込まれてしまった。
結局、1人あたりの消費増税による負担増は2万7000円、同じく1人あたりの軽減税率による負担軽減額は8000円と修正せざるをえなくなった。
当初の消費増税による負担増1万4000円は総務省の家計調査、修正後の2万7000円は財務省の消費税収からの推計だが、根拠となる統計をそろえたというのが表向きの理由だ。
ただし、実態は、財務省は自分に都合のいい統計を恣意的につかっていた、二枚舌がばれたのだ。実際、昨年、経済財政諮問会議で、財務省は総務省の家計調査をやり玉に挙げて、消費が低めに出ていると文句を言っている。その一方で、当初は家計調査のデータを使って消費税負担は1万4000円との数字を言って、消費税負担を少なくしたわけだ。ところが、実際の負担は2万7000円だった。
財務省の言う数字はちょっと注意してみたほうがいい。特に、数字に弱いマスコミはなおさらだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)、「戦後経済史は嘘ばかり」 (PHP新書) など。