「ふわわわわ~」と大きなあくびをした後、ふと見ると、我が家のワンコのマロンちゃんも可愛いあくびを始めた。
あくびは、親しい人間同士にはよくうつると聞いたけど、犬にもうつるのかしら?
飼い主と他人のあくび音を聴き分けて反応
答えは「ホント」である。その理由に入る前に、なぜ、あくびは伝染するのか、メカニズムを説明しよう。専門家のサイトを見ると、あくびをする理由には次のようなものがあるそうだ。(1)疲れた脳を活性化させるために酸素を送る(2)体温が上がると脳の働きが鈍くなるため、深呼吸で冷たい外気を吸い込む。そして3番目が、「集団生活をしている人間や動物同士が、一緒に寝る時刻が近づくと最初に眠くなった者が合図を送るため」だ。これが「共感行為」と呼ばれ、あくびは親しい者同士には伝染するといわれる由縁なのだ。
人からイヌへあくびがうつることを証明しようとした研究がいくつかある。
2012年5月、ポルトガル・ポルト大学の動物行動学者カリン・シルヴァ教授は、様々な種類の29匹のイヌに、こんな実験をした。飼い主のあくびの音と、まったく関係のない何人かのあくびの音を録音して、誰もいない部屋で聴かせた。すると、大半のイヌが飼い主のあくびの音を聴き分けて反応し、うち4割にあたる12匹があくびをした。飼い主の音を聴いてあくびをした割合は、無関係の人の時より5倍も高かった。この結果に、シルヴァ教授は「イヌにあくびが伝染したのは、飼い主に共感を示したからです」と語った。
イヌは、こわい時や不安な時もあくびをする
しかし、この研究には「イヌが飼い主に共感したからあくびをしたという証明にはならない。誰もいない部屋で緊張したせいかもしれない」という異論が出た。イヌは、こわい敵にあったり、見知らぬ人に触られたりして、ストレスや不安を感じると、あくびをすることがあるからだ。人も大舞台に立つ前に深呼吸をして不安を鎮めようとする。イヌのあくびも深呼吸にあたり、不安を抑えると同時に、相手に「それ以上、近づくな」と警告しているわけだ。
シルヴァ論文に対する批判の反省に立って、2013年8月、新たな方法で実験したのが東京大学のテレサ・ロメロ研究員らのチームだ。ロメロさんらは一般家庭で暮らす25匹のイヌと飼い主の協力を得て、イヌの前であくびの動作を繰り返してもらった。同時に見知らぬ人にもイヌの前であくびをしてもらった。また、イヌの「ストレス度」を測るために心拍計測器をつけた。
すると、人間の5分間のあくびの動作中、29匹中13匹のイヌが計29回のあくびをした。飼い主のあくびに応じた割合は、見知らぬ人の時より3倍以上高かった。飼い主と見知らぬ人の場合のイヌの心拍数にはほとんど変動がなく、ともにストレスを感じていないことがわかった。つまり、飼い主への「共感」であくびをしたことが証明された。
あくびはネコにもうつるの?
ロメロさんは、翌2014年6月、東京大学と麻布大学の共同研究でも「人とイヌ、そしてイヌ同士の共感関係」の研究を発表している。そこで、イヌが人やイヌ同士と触れ合う時には、「オキシトシン」というホルモンが仲間意識を高めていることを突きとめた。オキシトシンは、母親が乳児に授乳している時に分泌されているホルモンで、「愛おしい!」を感じる母性の源だ。「愛情ホルモン」「癒しのホルモン」と呼ばれる。そのホルモンが、飼い主と一緒にあくびをする時のイヌの体内に出ているらしい。
ところで、あくびはネコにもうつるのだろうか。いつもあくびをしているネコに対する学術的な研究は見当たらないが、ユーチューブ上では、「人からネコにうつった可愛い瞬間を捉えた!」という動画がいくつかアップされている。