イヌは、こわい時や不安な時もあくびをする
しかし、この研究には「イヌが飼い主に共感したからあくびをしたという証明にはならない。誰もいない部屋で緊張したせいかもしれない」という異論が出た。イヌは、こわい敵にあったり、見知らぬ人に触られたりして、ストレスや不安を感じると、あくびをすることがあるからだ。人も大舞台に立つ前に深呼吸をして不安を鎮めようとする。イヌのあくびも深呼吸にあたり、不安を抑えると同時に、相手に「それ以上、近づくな」と警告しているわけだ。
シルヴァ論文に対する批判の反省に立って、2013年8月、新たな方法で実験したのが東京大学のテレサ・ロメロ研究員らのチームだ。ロメロさんらは一般家庭で暮らす25匹のイヌと飼い主の協力を得て、イヌの前であくびの動作を繰り返してもらった。同時に見知らぬ人にもイヌの前であくびをしてもらった。また、イヌの「ストレス度」を測るために心拍計測器をつけた。
すると、人間の5分間のあくびの動作中、29匹中13匹のイヌが計29回のあくびをした。飼い主のあくびに応じた割合は、見知らぬ人の時より3倍以上高かった。飼い主と見知らぬ人の場合のイヌの心拍数にはほとんど変動がなく、ともにストレスを感じていないことがわかった。つまり、飼い主への「共感」であくびをしたことが証明された。