自動車メーカー大手のスズキをめぐる再編劇が表面化しつつある。「トヨタ自動車とスズキが提携交渉に入った」と、日本経済新聞が2016年1月27日に報じた。
トヨタとスズキは、インドなど新興国市場での競争力の強化を狙い、環境や安全、低コスト生産の技術などの分野での「協業」を視野に入れている、という。両社は同日、「交渉に入った事実はない」とのコメントを発表したが、各メディアが交渉報道を追随するなど、現実味があると受けとめられている。
お互いの強みと弱みが合致する組み合わせ
グループの世界販売台数で1000万台を超え、世界トップのトヨタ自動車は、ハイブリッド車(HV)「プリウス」や燃料電池車(FCV)「ミライ」に代表される環境技術や、自動運転などの安全技術で先行している強みがある。
その半面、トヨタにとって軽量で低価格の小型車づくりは不得意で、いわば「泣きどころ」だ。そのため、いまだにHVのエコカーよりもガソリン車が重宝される新興国では苦戦が続く。なかでも、成長市場のインドでのシェアは4.1%(2014年)にとどまる。
一方、スズキはそんなトヨタの「弱み」である低価格車づくりのノウハウを有し、いち早く進出したインドでは子会社のマルチ・スズキが約4割のシェアを占めて首位を走る。約30年かけて築いたインドでの強固な販売網は強みだ。
国内市場が頭打ちで、トヨタとしても海外販売は加速したいところ。北米や中国に加えて、アジア圏での足場を一気に固めたいトヨタが、巨大なインド市場を次のターゲットとすれば、低価格車をつくることに長けたスズキとの「協業」は願ったり叶ったりというわけだ。
一方、スズキも国内販売は絶不調。なかでも、軽自動車は2015年実績で21.1%減の55万9699台で4年ぶりに減少。全車種で減少し、前年を下回った。登録車も2.1%減の7万6667台で、3年連続の減少。新型「ソリオ」を投入した15年9月以降は増えたが、全体では前年を下回った。
「軽」が売れない原因には、軽自動車税の増税がある。15年4月以降に購入した新車の軽自動車は年間3600円の増税になった。また、増税前の駆け込み需要の反動や、市場に投入された新型車が少なかったこともある。
過去の提携で外資に懲りたスズキ
とはいえ、これまでもスズキを「自動車メーカー再編のトリガー」と見る向きは少なくなかった。スズキは2015年6月にカリスマ経営者の鈴木修会長の後継として長男の鈴木俊宏氏が社長に昇格。8月末には、独フォルクスワーゲン(VW)との資本・業務提携の解消を発表した。16年は攻勢をかけていきたい1年だ。
そもそも、スズキにとってVWとの資本・業務提携はVWがもつ環境・安全技術を取り入れることが狙いだった。提携を解消したからといって、その技術を手にしたわけではない。加えて、中国や欧州のほか、新興国でも燃費規制が段階的に強まる方向で、対応する技術をもたないスズキにとって、次世代の環境・安全技術の取り込みは喫緊の課題だ。
スズキの「お相手」はどこか――。スズキは過去、米ゼネラル・モーターズ(GM)と資本提携していたが、同社の業績悪化で関係は解消している。そのあとに収まったのがVWだった。
また、かつてマツダと資本提携していたフォードが日本市場から撤退を表明するなど、米自動車メーカーの日本市場への評価は低い。独立系の投資情報会社、TWIの自動車セクター・アナリストの高田悟氏も、「米自動車メーカーとの提携は選択肢としては細いとみています」と話す。
スズキはVWとの提携に失敗しているため、「外資には懲りている」との見方もある。
国内をみても、「スズキが必要とする環境技術はHVや燃料エンジンです。EVという選択はほとんどないでしょう。たとえば、EVに注力する日産自動車という選択は考えられません」と、高田氏はいう。
トヨタとは、現社長の鈴木俊宏氏がトヨタの開発部門を前身にもつ日本電装(現デンソー)を経て、スズキに入社。人的つながりもある。高田氏は「スズキのインドでのプレゼンスが高く評価されるのであれば、トヨタは有力」とみている。
お互いに、交渉の選択肢としてはあっても不思議ではないということのようだ。