読売新聞でさえ「甘い見通し」
こうした政府の説明は、かなり苦しい。試算は、農産品の輸入増加は見込むのに、輸出増は見込んでいない。とすると、国内に増える内外の農産品はどこに行くのか。輸入増などで価格の下落も進むはずで、これでも生産量も所得も維持するとなると、農業の競争力を大きく高めなければならない。
現実的に考えれば、競争力のない農家は廃業して力のある農家に農地を集約するか、廃業しない農家でも、規模の大きくないところは利益が出やすい作物への転換などが避けられないが、高齢化が進む中で、体質強化が目論見通り進む保証はない。
コメの消費量についても、コメ離れと人口減少で長期低落が続いているのに、こうした影響は考慮していないなど、自民党農林族からも「(試算は)強気すぎる」との声が聞こえる。
民間からも、鈴木宣弘・東大大学院教授(農業経済学)が政府の試算に反論して独自の試算を15年末に発表。政府が前回試算で、関税が撤廃された場合の生産減少額として、鶏肉990億円、鶏卵1,100億円、落花生100億円、合板・水産物で3,000億円などとしていたのが、今回は、これらの品目が全面的関税撤廃という前回と同じ条件なのに、「影響は軽微」としていることなどを挙げて「まったく説明がつかない」と指摘。TPPの関税撤廃・削減で、国内の農林水産物の生産額が1兆円超減ると弾いている。
各メディアの報道も、安倍内閣支持の論調が強い「読売新聞」でさえ、「TPP効果 甘い見通し」(15年12月25日付け)と報じるなど、疑問を呈する記事が目立っている。