いわゆる従軍慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」したとする日韓の合意に、韓国世論の反発が収まらない。そんな中で韓国政府は合意の意義や指摘されている論点をQ&A形式でまとめたコーナーをウェブサイトに開設し、少しでも世論の納得を得たい考えだ。
ただ、その中には気になる記述もある。例えば「将来の世代のために慰安婦問題の真実を知らせ再発を防止しようとする努力は、最終的不可逆解決とは無関係」といったものだ。日本国内では「最終的かつ不可逆=蒸し返さない」と理解する向きも多く、日韓の認識の差が際立つことにもなりそうだ。
「合意」後に増えた日本大使館前のデモ
2015年12月28日の日韓「合意」後、毎週水曜日にソウルの日本大使館前で行われているデモの参加人数は、むしろ大幅に増加している。慰安婦をモチーフにした像の撤去に反対したり、合意自体が無効だとする主張が次々に展開されている。こういった状況に対応するために、16年1月20日、韓国外交部(外務省)のウェブサイトに「日本軍慰安婦問題の合意に関するFAQ」と題するコーナーが登場した。合意に関する13の質問に対して回答する形式で、PDF版の場合、その分量はA4用紙で10枚にも及ぶ。
文書では、(1)軍の関与という歴史的事実を認め、日本政府としての責任を表明(2)内閣総理大臣が正式な形で公開の場で謝罪と反省を表明(3)元慰安婦の女性の名誉と尊厳を回復するために追って設立される財団に日本政府予算から拠出、といった点が繰り返し「合意の成果」として強調されている。こういった点が履行されて初めて、慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決」されるという合意の論理構成を改めて確認した形だ。
日本側からすれば、問題を「蒸し返される」懸念が浮上しそうな表現も散見される。例えば12番目には
「今後、国連などの国際機関で、韓国政府がこの問題を提起することができないというのが事実なのか?」
という質問がある。これは、日韓両政府が「今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」ことで合意したことについての韓国側の関心を示したものだ。回答では、この合意は(1)合意の誠実な履行を前提に(2)政府のレベルに限っていると説明したうえで、一般論として
「政府は、戦時性暴力など普遍的価値としての女性の人権を保護し、促進するための国際社会の議論には、今後も継続し積極的に参加していきます」
とも付け加えており、「戦時性暴力」に関する議論は参加するとした。慰安婦問題を抜きに「戦時性暴力」を議論するのは困難だとみられ、慰安婦問題について国際社会で再び議論する可能性を残した形だ。
「10億円拠出は慰安婦像移転が前提」は「全く事実ではありません」
13番目の「最終的かつ不可逆」の意味を問う質問でも、「今回の合意の内容と基本的な精神が誠実に保たれるという前提」で、慰安婦問題が両国政府のレベルで最終的かつ不可逆的に解決されることを確認した、と説明。
「特に『不可逆』という表現は、日本が今後合意を覆すか、逆行する言動をしてはならないという意味を含んでいる」
と、一方的に日本側だけに合意を履行する責任があるかのような表現もある。さらに、「慰安婦問題の真実を知らせ再発を防止しようとする努力」は引き続き行うことを表明。こういった「努力」のプロセスで対日批判が飛び出すかが注目されそうだ。
「研究や教育などを介して、将来の世代のために慰安婦問題の真実を知らせ再発を防止しようとする努力は、最終的不可逆解決とは無関係であり、政府は今後もこのような努力を続けていきます」
日韓の合意では、日本大使館前の慰安婦像について、
「韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて適切に解決されるよう努力する」
という文言が盛り込まれた。これに対して今回のQ&Aでは、
「韓国政府が少女像を移転することに合意した、または、少女像を移転することを条件に10億円の拠出を受けることにしたというのは、全く事実ではありません」
と説明した。これは、必ずしも合意内容と矛盾するわけではないが、韓国政府が「努力する」ことには触れられていない。国内世論向けに都合のいい説明をしている、という見方も出そうだ。