古代インドから伝わる伝統医学「アーユルヴェーダ」には、薬用油や煎じ薬を額に垂らして不眠症を治す「シローダーラー」という療法がある。昔から睡眠改善効果があるといわれてきたが、医科学的に研究された例はほとんどなかった。
岡山大学環境生命科学研究科の時信亜希子特任助教が、ごま油を使ったシローダーラーの実験を行い、睡眠改善の効果があることを突きとめ、2015年12月に開かれた日本統合医療学会で報告した。シローダーラーの効果を医学的な実験で検証したのは世界で初めてだという。
睡眠障害を自覚している男女に試したところ...
時信さんは、睡眠障害を自覚している男女22人(平均年齢42歳)の協力を得て、(1)ごま油のシローダーラーを行った後にお湯のシローダーラーを行う(2)その逆の順番でシローダーラーを行う、の2つのグループに分けて実験した。両グループとも液体名を伏せたまま、ベッドの上に仰向けに寝てもらい、顔の上から自動滴油装置を使って額に液体を垂らした。
施術時間は一律30分に統一し、2週間以内に7回行った。そして実験開始時と、その2週間後、6週間後の3回にわたり、協力者の睡眠状態を調査した。調査には、医科学的に測るために、国際的な睡眠障害の標準である「ピッツバーグ睡眠質問票」「エプワース眠気尺度」などを使った。これは、いくつかの質問に答えると、自分の睡眠障害の度合いを点数で知ることができる調査票だ。
また、これとは別に、4週間にわたって「睡眠計」を使い、毎晩の起床時間、睡眠時間、睡眠効率などを計測した。その結果、ごま油を垂らしたケースでは、お湯に比べて、明らかに国際的な睡眠改善指標が上昇した。
ごま油の重み、粘り、温かみが「風」を鎮めて眠くなる
時信さんは報告で、「アーユルヴェーダの古典によると、ごま油には重み、粘り、温かみがあり、睡眠障害の原因であるヴァーダ(風の要素)の乱れを鎮める作用があるといわれます。これが睡眠改善効果につながったのでしょう。これから会社内のストレスチェック制度が始まりますが、不眠に悩む人がシローダーラーを受けられるよう、産業医から紹介してもらう体制を作りたい」と語っている。