2016年4月から電力小売りが全面自由化されるのに合わせ、新規参入者(新電力)と迎え撃つ大手電力が、一般家庭向けのサービス競争を開始した。首都圏を中心とする東京電力管内では、東京ガス、JXエネルギー、東燃ゼネラル石油などガス・石油会社だけでなく、ソフトバンク、ローソン、東急電鉄など異業種の新電力が自社商品とのセット割引を掲げ、消費者に割安感をアピール。東電も新料金プランを発表して新電力に対抗しており、新電力と大手電力の顧客争奪戦が過熱している。
料金競争は、大別して3つの流れが絡み合う。新規参入組の独自プラン、電力会社との提携、そして、電力会社の対抗値下げ――の3つだ。
新電力は軒並み現行料金から大幅値下げ
まず、首都圏で東電の最大のライバルと目される東京ガスは1月4日、申し込みの受付を開始した。電気とガスをセットで契約すると、電気代が年間で約4000~5000円安くなるという。
大手石油元売りのJXエネルギーは「ENEOSでんき」として、KDDIと提携し、系列のガソリンスタンドでも契約できる。事前予約の「早割キャンペーン」を1月15日に開始しており、3年間で50万件が目標。料金を3段階に分け、5人家族以上の平均的なケース(40アンペア、月間使用量500キロワット時)は2年契約で現在の東電より年間約1万5000円安くなる。ただし、使用量が少ないケースは逆に高くなる場合もあるという。「エッソ」「モービル」などのブランドを展開する東燃ゼネラル石油は「myでんき」のブランドで参入した。
電鉄系では東京急行電鉄(東急)が100%子会社「東急パワーサプライ」を設立し、東電管内で電力を供給する。一戸建て4人家族のモデルケースでは、東電に比べ年間約9400円安い。同社は東急沿線の顧客向けに「定期券とセットの割引を検討中」という。同社は提携先の発電所や電力卸市場から電力を調達し、供給する。
コンビニ大手ではローソンが三菱商事と組み、東電管内で電力を販売する。コンビニ業界で家庭向けの電力小売りに参入するのはローソンが初めて。「まちエネ」のブランドで、関東圏約4000のローソンの店頭やインターネットで2月から申し込みの受付を始める。料金プランなどは今後、明らかにする。
単身など使用料少ない世帯は恩恵少ない
新電力の台風の目となりそうなのは全国展開を目指すソフトバンクで、東電と業務提携しており、4月1日から東電と関西電力、中部電力の3エリアで電力小売りをスタートする。「ソフトバンクでんき」の商品名で、申し込み受付を1月28日スタート。「順次、全国へ拡大する」という。
例示したモデルケースでは、一戸建てに住む3人家族、従量電灯B(40アンペア)で月間の電力使用量が392KWhとして、電気料金の割引とTポイント付与数を合計して、現在の東電との契約に比べ年間約8920円、関西電力と比べて約1万5500円、中部電力と比べて約9110円安いとしている。いずれもソフトバンクの携帯電話か固定通信サービスの契約が必要になる。
一方、東電は、ソフトバンクとの提携とは別に、電力の使用量が多い世帯を意識した新プランを発表。3月末までに2年契約を結ぶと現行料金に比べて、最大で約5%、2年で約2万9300円安くなるという。ただし、電力使用量が標準的なモデルケースでは年間約1000円(約1%)の割引にとどまるという。
新電力、大手電力とも、電力の使用量が多い世帯ほど割引となるのが特徴で、単身世帯など使用料が少ないと割引率も低いので、注意が必要だ。
また、JXや東燃などはインターネットで電気料金を比較できるシミュレーションを行っている。ソフトバンクも1月28日に比較シミュレーションコーナーを専用サイトに開設するなど、ネットを通じた料金比較も各社に登場しており、競争に拍車をかけそうだ。
「電源構成」の開示義務が見送られた
他方、料金の引き下げもさることながら、新電力がどこから電力を調達したかという「電源構成」を明らかにするかも注目ポイントだ。ドイツでは消費者へ電気料金を請求する際、原発、石炭火力、天然ガス火力、再生可能エネルギーなどの電源構成を表示する義務があるが、日本では見送られた。
新電力が「再生可能エネルギー100%」などをセールスポイントにする場合は、電源構成を開示する必要があるが、業界では「再エネでは当面は電気料金が高くなり、供給量も限られるのではないか」とみられている。また、政府の固定価格買取制度(FIT)で買い取られた再エネは「クリーンエネルギー」「自然エネルギー」などと表示して販売することができず、消費者にわかりにくい仕組みになっている。ソフトバンクは「再エネに由来する電力を希望するお客さま向けに『FITでんきプラン(再生可能エネルギー)』を今後、提供する」という。消費者が料金プランだけでなく、電源の選択がわかりやすい開示を求める声が今後は高まりそうだ。