東京株式市場は2016年1月14日午後、日経平均株価が一時、1万7000円を割り込んだ。前日の終値から770円を超える急落で、いつ下げ止まるのか気が気でない状況に陥った。
個人投資家からは、「なんとなく、リーマンショックのころに似てきた」との声も漏れはじめた。世界経済のパラダイムシフトが起きているのかもしれない。
原油安、12年ぶりの1バレル30ドル割れが引き金
東京株式市場は、米株安や円高などの影響で投資家心理が悪化。ほぼ全面安の展開で、日経平均株価は2016年1月14日午後、前日比771円22銭の1万6944円41銭まで急落した。その後は値頃感から買い戻しが入って下げ幅を縮め、終値は474円68銭安の1万7240円95銭で引けた。どうにか1万7000円台に踏みとどまったものの、4日の大発会から1800円近い下落だ。
株価下落の原因は、いくつかある。まずは中国経済の先行き不透明感。投資家のパニック売りを招いて1月8日に運用を停止したが、年初からのサーキットブレーカー(取引の一時停止)制度が拍車をかけたこともある。
そんな中国株に引きずられたことに加えて、原油安が足を引っ張ったのが米国株。1月13日のニューヨーク株式市場は、ダウ工業株30種平均が前日比364.81ドル(2.2%)安の1万6151.41ドルで引けた。米政府の石油在庫統計の発表を受けて、原油相場が下落に転じると、株価もずるずると値を下げた。
さらに、日本株は中国株や米国株の下落に、円高が追い討ちをかけた。米国株の大幅下落でドル売りが優勢となり、14日朝の東京外国為替市場はドル円相場が1ドル117円前半と、前日比(午後5時、118円前半)80銭ほどドル安・円高となった。
円高の進行で企業業績に対する先行き不透明感が強まって、輸出関連株や銀行株などの下落が相場を押し下げた。
日本株についていえば、複数の外部要因が悪材料となって重なった格好だ。
とはいえ、こうした世界的な株安の「元凶」ともいえるのが「原油安」だ。2016年1月12日の米ニューヨーク市場で、原油先物の指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート、期近物)が7日続落。一時、心理的節目である1バレル30ドルを下回り、29.93ドルと2003年12月以来の安値をつけた。その後も下押し圧力が続いている。
そもそも、原油安のきっかけは2000年代後半に遡る。世界最大の石油消費国である米国でのシェールオイルの生産が本格化。エネルギーを自給できる見通しになったことがある。さらに、原油価格に強い影響力を誇ってきたサウジアラビアが2014年11月の石油輸出国機構(OPEC)の総会で、市場でのシェア維持を優先して減産を見送った。それ以降、産油国の増産競争は激しさを増している。
減産する国がないのだから、ダブついた原油の価格は下がる一方になる。そこに欧州経済の停滞や中国経済の減速が鮮明になったことで、世界的に原油需要が緩んだ。それが歴史的な原油安につながったとされる。
米国シェールオイル企業の借金返済が困難に
本来、原油安はガソリン価格や電気代などの値下がりを通じて、企業の業績や個人消費を押し上げる要因となる。その半面、石油元請けをはじめ、企業収益を圧迫して株価下落につながる恐れがある。
そうした中で、最近ささやかれているのが原油などの資源プロジェクトの資金調達のために発行された「ハイイールド債」といわれる債券の暴落だ。かつてのリーマンショックでは、住宅ローン債権を証券化した「サブプライムローン」の暴落がきっかけだったが、その二の舞になるというのだ。
ハイイールド債とは、利回りの高い債券のこと。現在、米国では「シェール革命」で2000社とも、3000社ともいわれるシェール関連企業があるという。それらの企業は、これまでの金融緩和による低金利で、大量の債券を発行(借金)して掘削プロジェクトを進めてきた。
ニッセイ基礎研究所・金融研究部のチーフ株式ストラテジスト、井出真吾氏は「原油がだぶついているわけですから、シュールオイルの需要も増えません。掘削したシェールオイルを売って借金を返済する当初の計画が危うくなり、結果的に借金の返済負担だけが残るわけです」と説明する。
さらに、「米国ではそういった(借金漬け)企業は少なくありません。一部では3月末に期限を迎える債券の借り換えができなくなり、資金繰りに窮する企業が出てくると聞いています」と、危惧する。
米国は2015年12月に利上げに踏み切ったが、16年3月には追加利上げの観測もある。追加利上げとなれば、借金の返済負担はますます増える。すでに米株式市場ではシェール関連株が値下がりして、ダウ平均株価を押し下げてもいる。
井出氏は、「信用収縮につながるようであれば、リーマンショックと同じような事態に陥る可能性はあります」という。